年「あ、今年は妹の所で年越しするから」 今年も飽きなく相方と一緒に年を過ごすんだなぁとのんびり考えていた俺は、その相方の何気ない一言で固まった。 「え、は……?」 「ノエルが近くに来てるらしいから、それなら一緒にって」 「……ああ、そう」 椅子に腰掛け例の妹からの手紙を読む相方は、こちらに目線をくれるでもなく淡々と言い放った。普段俺がやると怒るくせに自分も足をぷらぷらさせて、何枚もある紙をめくっている。こいつ表情に出ないけど、最愛の妹からの近況が届くと一週間は機嫌が良い。しかし何回目だよ、それ読むの。 今日の相方、イヴェールはいつにもまして御機嫌だ。そしてそれは昨日届いた手紙のせいだろう。今朝から感じていた不気味な浮かれた空気は、そうか、年末年始を家族で過ごせるからか。 棚に隠しておいたワインのことを思い出した。確かつい先日、行きつけの見せのおば…マダムからおすそ分けしてもらったといういきさつのある年代物の葡萄酒。何とか見つからないように隠しておいて、年末にじゃじゃーんと披露したらどういう反応するのかなんて企んでたっけ。喜んだだろうかさっさと出しとけよと怒られたのだろうか。たった今俺の独り酒の相棒に転職したから、真相は闇の中だ。 不意に、何だか裏切られたような寂しいような気分になる。 「ふーん、今年は王様のガレットを焼かなくて済むわけか」 「え」 「え?」 イヴェールが手紙から顔を離したので視線がばっちり合う。色違いの赤と青が丸くなるのにつられて俺は首を傾げた。 「言ってなかったっけ?」 「妹ちゃんの惚気なら一晩中聞かされたな」 「ローランサンも一緒に来るんだぞ」 「えっ」 「あれ、言ったような気がしないでもなかったんだけど……」 「……ひとっっことも聞いてないし!しかもなぜに断定口調?俺が行くと限らないだろ」 口の端を引き攣らせた俺に対しイヴェールはしれっと「僕が行くと言えばお前も行くんだ」とのたまう。亭主関白気取りかこのやろ……何か今凄く言葉の選択を誤った気がする。 「ノエルがサンのガレット食べたいって言っててな。材料は用意するから一緒に作りませんかって」 「聞いてない、そんな重要事項聞いてない」 「棚に入ってるワインも準備しといてね」 「ちょっ、おま、いつからその存在に…っ!?」 「馬鹿かお前。バレバレ。お前が隠してるとこを諸に見たんだよ」 「うそん……」 「ま、」 驚かそうとしていたことすらばれている気がして若干しょんぼりしていると、イヴェールは俺の頭に掌をあててぐしゃぐしゃ掻き回した。 「珍しく上物そうなワインだし。楽しみだな」 表情を和らげたイヴェールに、俺は先ほどの寂しさ等諸々を吹き飛ばして、もうどうでもいいやと俺も笑ったのだった。 |