視界に映る世界は何も見えるものだけで成り立っているわけじゃない。行動の選択肢は無限に広がっていて、許されている行動コマンドのうちどれを選ぶかにより世界、何の変哲もないアパルトマンの一室の状況は変わってくる。例えばソファーに凭れて眠気と戦っている今現在にしても、そのまま睡魔に流されて寝るとか、六分おきに「喉かわいた」を繰り返している相方の為に水をかけてやるとかの行動パターンがある。俺が寝たら「喉かわいた」相方でも仕方なく口をつぐむだろうし(それくらいの良心は装備していると信じてる)、後者だったら今月最悪の大喧嘩に発展するだろう。だとしたら、物が飛び交う惨劇の部屋より、相方のかわいた喉を犠牲にしてやけに静まり返った午後を選ぶに決まっている。

まぁ結局は例え一瞬先の未来でも蓋を開いてみなければ分かる筈のないものだ。未来が予測出来たら“例外”なんて単語は生まれない。視界に映る世界は、この目で見えるものと、無限に広がる多くの選択肢、とその結果の間にのさばる「結果をどう転がそうか」煩悶する誰かの意思だ。そしてその誰かが誰であるかで、結果を運命って呼びたくなることもある。そして俺の相方は、その誰かを極力自分自身であろうとする人物だった。

「ローランサン」

最後に「喉かわいた」と言って7分後、イヴェールは読んでいた本をごく普通に閉じて半分夢の国の住人の名前を呟く。返事がないのも気にせず、無言で立ち上がってすたすた俺のいるソファーまで来ると、隣に座り込み、問答無用で肩に寄りかかった。そして俺の与り知らぬ所ではあるが悪戯な色を二色に混ぜ込ませ、徐に人差し指でぷにぷに俺の頬を突き始める。

途端ぞぞぞぞと悪寒が足元から這い上がり、折角の心地よかったまどろみがどこか意識の外に放り出された。


つい午前中近くの噴水の辺りで、「んも〜こいつぅ」と突きあうカップルを見かけ吐きそうになった記憶があるので、イヴェールがそれをだしにたことには違いなかった。そして奴の思惑通りに、慌ててイヴェールから逃げた俺は結局、台所に立って鍋をかき混ぜる。茶色のどろどろとしたショコラはもらい物で、瞬く間に相方のお眼鏡に適ったその粉末は、俺が一口飲む前に全て奴の胃袋に消えようとしていた。証拠にこの鍋一杯分で最後だ。突然眠気を奪われて痛む目の裏を押さえながら、いつか冗談半分に買ったショッキングピンクのマグへ乱暴に中身を注いだ。










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