※'10ハロウィン


アポなど取っていない。単なる気まぐれ半分と、通いなれた道を辿った結果半分で、僕はそのインターフォンを押した。一回目、宙吊りになった間抜けな音が、ドアの中からくぐもって聞える。それ以外は物音さえしなかった。二回目、同じく反応なし。三回目押した所でドアノブがガチャリと喋り、続いてどたどた歩く音。一気に賑やかになると思いきや、それ以降はまた静かな空間へ戻った。ドアノブを回せば、抵抗なく扉が開く。遠慮せずにずかずか中へ入り込み、後ろ手に金属製のそれを閉める。


廊下はフローリングだ。裸足でなくて良かったと思う。ここ数日で一気に冷え込んだ今の状況で、靴下の有無は、寒がり屋にとっては死活問題なのだ。冷えは靴下越しにも伝わってきたけれど、靴下がなかったらそもそもこんな廊下、とっくに踵を返している。


そんなことを思いつつ、僕は部屋主の姿を探した。


「生きてるかー」


生存確認と同時に声をかける。遭難者への声かけは重要だ。程なくして、やる気の一かけらも見つからない返事が上がった。どうやら彼は、リビングで救助を待っているらしい。まさしくその通りで。リビングに向かうと、部屋の片隅で蹲っている毛布の塊がもそもそ蠢いていた。


「……ローランサン、って風の子じゃなかったんだ」


そう、この救助者もとい毛布はローランサン。どうやら僕は今までローランサンのことを誤解していたようだ。熱さに滅法強いものだから、当然冬もぴんぴんしているのだろうな、と。毛布は、寒い寒いとごちゃごちゃ言っている。


しかし、勘違いの勘違いは、すぐ本人が否定した。震える声は、何やら掠れていた。


「や、最初の一週間乗りきれば後大丈夫だから」
「意味が分からん」
「あー、心頭冷却すれば、雪も何とやら?」


この説明で理解した僕に、ローランサンは土下座して感謝するべきだ。


「つまり、冬の初めは寒さに順応できないけど、一週間もすれば環境に適応して寒がりじゃなくなるってこと?」
「意味が分からない」
「だから、心頭冷却すれば、冬将軍も暖かいってことな」


毛布の塊は毛布のまま、こくこく頷いた。



暖房器具はないのか。僕の質問には「一週間だけのために暖房器具買う余裕がない」との返事。確実に真冬を舐めかかっている発言だ。でも、夏の元気さを思い出せば、頷かざるを得ない。元々体が丈夫な性質なのだろう。無理矢理納得した。


「おでん食べたい。鍋も」
「こたつでアイス食べたい」
「セレブめ」
「冬の醍醐味だろ」


暗くなるのもつるべより早い、夕方午後17時。テレビだけついたカーペットの上で毛布と対話中。ご当地番組の女性キャスターが、今月末のことについて詳しく語り始める。あれ、何のために僕はここに居るのだろうか。自発的にここに居て、行動理由が分からないなんて滑稽にも程がある。


オレンジが眩しいジャックオランタン。画面が切り替わってCMに入ると、毛布からローランサンに進化したローランサンは、徐に片手を伸ばした。もう、次の言葉の予想なん
てついていた。


「お菓子くれなきゃ泣かします」


大真面目に言われたものだから、僕は一瞬だけきょとんとして、取りあえずポケットの中に入っていた未開封のホッカイロをローランサンに投げつけた。べし。悲痛な音が響いて、結局涙目になったのはあっちの方。


そうか、今日はホッカイロを投げつけるためにここへ来たんだ。何となくそう思った、冬の初めごろ。


隣には毛布へ退化した毛布。







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