白ルキ
6/10時の記念日






彼からの一番最初の贈り物は、古い懐中時計だった。所々錆びていて、文字盤は1と6が薄れて読めない、でも一分一秒も狂わず正確に時を刻む時計だった。


「女の子にあげるには、相応しくないけどね」


しかも僕のお古だけど。そう言って頭を掻いた彼に、力いっぱい頭を横に振った。彼と居る時間が少なくなり、寂しい気持ちを隠せなかった当時のぼくは、似合う似合わずは二の次で、彼が彼の物をぼくにくれたという事実に飛び上がるほど喜んだのだ。


「本当に貰って良いの?これ、白鴉大切にしてたでしょ」


そう、白鴉が時々それを取り出して、とても愛おしそうな顔をして見ていたのをぼくは知っている。物事にどこか無頓着な所がある彼の、唯一大切にしている物だということも。

だからぼくがその時計に嫉妬したのは一度ではない。綻ばせた目元も、柔らかに弧を描いた口元もぼくだけの物にしたかった。月明かりに鈍い金色が煌めくのを、飽きずに見つめる白鴉の背中を感じただけで、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


「大切だから、ルキアに持ってて欲しいんだ」


日が昇る前の空を映した双眸が柔らかに細められて、その表情が大好きな単純脳みそは、縦に頭を振るよう命令したのだった。

成長期の割には成長しないと嘆いていた彼だけれど、ずっと一緒にいたぼくにとって、少年から殻を脱ぐように大人に成長する白鴉はとても素敵に思えた。いや、彼は大分最初から大人で素敵だったけれど、つまり更に恰好良くなっているのだ。困っちゃうよね。彼の見慣れたけれど見慣れない仕草に一々驚いて、ときめきに胸が追い付かなくて、呼吸困難に陥りそうなんて。

手渡しされた懐中時計は、それなりの重さがあった。かつての嫉妬対象との再会に、思わずまじまじ見つめてしまう。白鴉はそれを、ぼくが時計を気にいったのだと思い込んで、一安心したようだった。そんな、安心するほど緊張するくらい、ぼくは白鴉のくれたものにケチをつけるのだと思われてたのだろうか。


「ありがとう、白鴉。ぜったい大事にするね!」

「うん。僕の大切なものだったから、ルキアが大切に持ってくれると嬉しい」

「……責任重大だなぁ。よし。毎日ぴっかぴかに磨いて、いつでも持ち歩いて、あ!落とさないように鎖付けていい?」


白鴉は笑いながら頷いた。



用意周到なぼくはお返しに、似たような意匠の懐中時計を彼に送り、ぼくらはお揃いで時計を懐に持つことなる。現在動いているのは片方のみだけれど、毎晩彼のまねをして月明かりに時計を翳す行為は、今でも癖のように染みついて離れない。







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