目があった瞬間、日常は世界の外側に置かれた。心臓が胸から喉元を辿り、耳の奥にまで迫り上がってくる心地が体を支配する。

そっと、空気を壊さないように目だけを動かして、相方をまじまじと見た。鈍い銀は相変わらず好き勝手に跳ねていて、プライベートの無防備さを増長させた。片手に近くで買ってきたパン、靴下なんかは片方だけずり下がっている。正直、休日なのでみっともない格好だ。とは言え相方と名乗るからには、勿論こちらも休日で、やっぱり寝起きのみっともない姿だった。涎の跡がついていない確証もない。

しかし相方は同じく、一口食べられたパンを飲み込むことも忘れて、こちらを凝視する。あっさりと目元に赤色を刷いて、畜生、鏡を写したようにこちらまでも顔が熱くなる。夜の空を零した両目は忙しなく瞬いて、次の一手を打ちあぐねている。

――こんな雰囲気になるのは、初めてじゃない。いつも止まった時を流すのはこちらからだった。

仕様がない、これは仕様がないことなんだ仕方ない。呪文のように胸のうちで繰り返して、唇は誘い込まれるように相方の頬へ滑る。「おはよう」と蚊の泣くような声で呟けば、遅れて震えた肩に乗っかった頭が「おう」と頷く。そのまま肩に顔を埋めれば、男のくせに悪くない香りがした。

途端に広がる満足感はじめ達成感に、気が狂いそうだ。そう、これだけでも気が狂いそうなのに、奴め、体重を僅かばかり預けてきた。リズムの違う息遣いが間近にある。まるで、仕事中逃げ回ってどこかに隠れた時のことのようだ。

程よくついた筋肉、軽くない体重、とうとう耳元から脳まで至りそうな心臓を抱えて、この状況が終わるまでの後3分を過ごしたのだった。






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