菓陰間パロの二人で、お菓子。 「これだけ?」 「これだけ」 目の前で広げられた包みから出てきたのは、餅一個。くずきりはどうしたと詰問すると、ローランサンは首をすくめて売れ切れていた旨を話す。外によく通じてるローランサンが評価した店のものなので密かに期待していたのだけれど、それを食べるのはまたの機会になりそうだ。僅かに肩が下がる。 「その代わり、別の美味いもん作ってきたから。これ」 「ん?お前、また厨に顔出したのか」 「良いだろ、別に。人数足りてないらしかったから、ちょっと手伝ってきただけだ」 「……ばれたら謹慎所じゃ済まないぞ。程々にしろ」 「分かってるって。それよりさ、食べようぜ」 そう流して、ローランサンはいそいそ懐から竹筒を取り出す。こいつがこういった忠告を耳半分で受け流すのはいつものことで、僕もそれ以上つっこまない。くどくど言う方が逆効果だと身を持って知ってるからだ。 栓を抜き、床に溢れないよう器用に竹筒を傾かせて、餅に中身を垂らした。ふわりと良い匂が鼻をくすぐる。 「これ、胡桃か?」 尋ねると、ローランサンは楽しそうに笑った。 「そ。煎ったくるみをすりつぶして、砂糖としょうゆを絡めたやつ。こうやって餅にかけて食べると美味いんだぜ」 「へぇ…」 「はい、楊枝」 そこで、ん?と首を傾げる。切り分けて二人で食べるとばかり思っていたが、違うらしい。渡された小指ほどの楊枝は、一人分しかなかった。 「餅は滅多にちょろまかせられないんだからな。噛み締めて食えよ?」 「…サン」 僕は楊枝を脇に置き、餅を指で半分摘んでそのまますぐ近くにある口に突っ込む。その済に薄くて触り心地の良い唇を擽るのを忘れない。むぐ、と間抜けなうめきをあげて、ローランサンは反射的に餅を噛みきった。離れた残りは自分の口に放りこんで、咀嚼。 一人で食べたら、この前の約束通りじゃなくなるだろ。 「あ、本当に美味いな。あまじょっぱくて」 「…っ、い、イヴェール!」 「何だ」 「行儀の悪いことすんな!!」 「お前が言えることかよ」 反論も出来ずに押し黙ったローランサンの目元は赤い。僕が、手に付着したたれを舌で舐めとると、更に耳元まで真っ赤になった。面白い。 「も、お前には一切菓子類作らねぇ…!」 どうやらへそを曲げてしまったローランサンを、どのように言いくるめてなだめるか。僕はあれこれ思い巡らせながら、口の中の余韻を楽しんだ。 あんみつだと、裏へよぅこそされるので急遽くるみ餅に\(^o^)/しかし間接キス。イヴェール…ぬかりない。 |