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ロラサンのターン!





「しばらくここで休んでいきな」


小さい獣の毛並みは、暗がりで見るより暖炉の炎に映えた。警戒して逆立つそれをゆっくり撫でる。じっと見あげてくる両目の色を判断するには、暖炉のみの光源じゃ足りない。


森の出口付近、いきなり飛び出してきた狐。良く見ると何ヶ所も怪我しているのを見て、俺は放っておけなくなった。
 何でだろう。こんな不気味な森で拾いものしたってなんの得にもなりはしないのに。俺はこいつを見捨てることを良しとしなかった。森の言い伝えとか微かにあった恐怖心を放り投げてまで、そいつを抱き上げて残りの道を全力疾走さえしてしまった。そのおかげで最後の道程は思ったより楽に済んだけどな。



「お前、賢いな。何だか俺の言ってる言葉が分かってるみたいだ」


返事がないと分かっていても話しかけてしまう。手当を終え目を覚まして一暴れを終えた狐は、ぴくりと耳を揺らせて俺を見上げた。まるでそんなこと分かって当然、と言ってるみたいに。面白くなって、ふわふわの毛並みを堪能しながらぽつぽつ呟く。一人暮らしが長い俺にとって、喋れなくても聞き手がいるだけで楽しい。喋る俺の口元を見て尻尾を動かしたり、瞼を開閉したりする仕草に心が和む。ああ、これがペット効果ってやつか。確かに癒される。





この時の俺はあの森の住人だということをすっかり忘れて、こいつがただの狐だと信じて疑わなかった。だから軽い気持ちで名前を付けて、とんでもない事態が起こったことに頭がついていかなかった。


「……」


目がちかちかする。ちかちかするのは、不意打ちで強烈な光を見てしまったからだ。光を見てしまったのは、イヴェールという名前をつけた狐がいきなり発光したからだ。うん。普通の狐なら発光なんてしないよな。蛍とか苔とかじゃあるまいし。だけど、目の前でそんな有り得ない事があっさり起こってしまった。


「…これ、は」


呆然としていると、呆然とする理由がのろのろと掠れた声を上げる。俺もつられてのろのろそいつと視線を合わせる。
先程まで狐が横たわっていた場所には、見知らぬ美人な男が俺と同じように呆然と座っていた。薄汚れたシャツ、それには不釣り合いな白い肌、座ってても分かる細い身体。しかも顔も良い。片方だけが異常に青いオッドアイが印象的で、ゆるく癖のついた銀髪の両脇には……人間にしてはやけにふさふさな、耳。その耳の形は、あの狐のものとそっくりで。


「い、イヴェール、なのか…?」


男は戸惑いながらも、静かにうなずいた。







耳で判断するロラサン。






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