基本ローランサンは、僕の突発的な思いつきに付き合ってくれる。「仕様がないな」ってうんざりしつつ、最後は苦笑いで許すのだ。「まあイヴェールだしいっか」って。こちらとしては、その態度に嬉しい一方、あんまり甘やかしてほしくないという思いもあるのだけれど。女という生き物は現金で、どんなに澄ましていても、甘いもの(お菓子や、態度だってそうだ)に蕩けさせられてしまう。

「ほら、完成」

ふんわり、カラメルとカスタードの匂いが溶けて混じって、思わず目元がほころびそうになった。ローランサンが僕に差し出したのは、白い皿に乗った小さめのプリン。カップから取り出された黄色い円柱は幸せのかたまりで、素直にありがとうと言えば、吹き出したローランサンが素直なイヴェールって気持ち悪いと失礼なことをのたまった。けれど今日は、多少いびつなプリンに免じて殴るのはやめにする。見た目が悪くてもその味の完成度を知っているから、ひとまずローランサンの脛を思い切り蹴ってやった。

料理が壊滅的な僕とは違って、ローランサンは男ながら調理場に立って遜色はない。特に仕事の相方なんてやっている都合上、一緒に住んでいることを念頭に置くと、彼は僕の味の好みを知っていることになる。つまり、このローランサンお手製プリンは、時々無性に食べたくなるわけで。いそいそとスプーンを握って一口分掬い、ぷるんと震えた感触にうっとりする。売ってるものも美味しいが、手作りならではの、独特なくせも魅力的だ。そこではた、と相方を見る。手際良くそれを作り、今はのんびりと向かいのソファに座って、新聞を斜め読みしている彼の分は、どこにある。

「サンは食べないのか?」

「ああ、作ろうかって思ったけど、丁度一人分で材料切れたし。後で買い出しいかないと」

掬ったプリンを口へ運んで咀嚼する。甘みを強くしてある分カラメルが少し苦く、喉の奥までふんわり広がるカスタードの香りと相まって、絶妙なバランスがとれている。うん、今日も美味しい。満足。けれど、ローランサンの答えは、何となく、僕を満足させるものではなかった。

回想してみる。僕がプリンをローランサンに頼む前、味を思い起こしたイメージの横に、一緒に食べてお茶する相方が横に居なかっただろうか。僕の気まぐれの最終形態は、そうすると、まだ完成していないと言えた。なら満足するには簡単。彼の分、プリンがもう一つなくても、一緒に食べることは可能なのだ。

僕は静かに、もう一口分スプーンを入れて、黄色い甘みを銀色のへこみに乗せる。そしてこちらに見むきもしない相方の前へ、それを差し出した。

「ん」

「……んん?」

新聞を通り抜けてやってきたスプーンと僕を、ローランサンは交互に見て首を傾げた。更にずずいと突き出せば、同じ分だけ首が仰け反る。

「い、イヴェール?」

言外にこれは何?とたっぷり含ませた疑問の声は、余計に僕を苛立たせた。このへたれめ。僕のプリンが食べられないとでも言うつもりか。僕はスプーンを持ったまま立ちあがって、向かいのソファ、ローランサンの隣に座り、彼の頭を掴んで固定する。

「はい、あーん」

「え、ちょ何この事態」

「だってローランサンが逃げるし」

新聞が音を立てて床に落ちたのを、目の端で捉えた。逃げる、って言葉はやっぱり訂正させてもらおうかな。どうせ逃げたんじゃなくて、展開についていけずただ単にあたふたしただけなのだろう。彼的には。しかしどちらにせよ、今食べるこのプリンは、一緒に食べなければ意味がない、僕が満足できない。そもそもこうやって困っているローランサンを見るのが楽しい。ほら、ゆらゆら揺らぐ藍色を見ると、どうしたって嗜虐心がくすぐられるものだ。

「これを俺に食べろって意味……?」

「それ以外に何の意味があるんだよ」

ひとつ溜息をつけば、ローランサンは不意に黙り込んで、何か思案するような仕草を見せた。そして徐に、スプーンを持っている方の僕の手首を取り、スプーンを奪い、矛先を方向転換させる。あ、と漏れ出た声はその後すぐ、口の中へ侵入した金属の冷たさに消えた。きょとん、と僕が目を見開いたのがおかしかったのだろう、ローランサンはしてやったり、と笑う。

「美味い?」

「……美味い」

それはよかった、と満足げに頷くローランサンが僕の頭をぽんぽん撫でた。不本意、非常に不本意だけど、多分きっとほんの僅かだけ、顔が赤くなった可能性がある。

「俺は、イヴェール見てると腹一杯になるから」

負けっぱなしは、いけない。僕は彼の胸元にあるシャツを掴んだ。大きくない胸が押しつぶされる感触がして、ローランサンが狼狽するのは目に見えてるけれど、むしろ更に押し付ける。びくりと震えた肩を無視して、プリンの味が残る咥内そのまま、噛みつくようにキスしてやった。










お待たせいたしました!サンにょイヴェ?のにょイヴェ襲い受け?のプリンプレイ?です。全てにハテナマークがつく事態になってすいませんorz
そして気が付いたらとってもいちゃいちゃしている盗賊になりました\(^o^)/返品も書きなおし号令も何時でも受け付けておりますので、こんな盗賊で良かったら嫁がせてくださいませ…!

それでは繋がるロマンをありがとうございました☆またお話しましょう!












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