何を食べたらこうなったんだろう。何を飲んだらこうなるんだろう。それとも原因は飲食物にはないのか。そうか、呪われてるのか。僕達の稼業に恨みつらみを持った、何処かの誰かによる呪いなのか。 「イヴェール、その……違和感ぜんっぜんないくらい似合ってる」 「ローランサン……似合ってるって言われてもぜんっぜん嬉しくない」 本当に何なんだろう、この現象は。しかも僕だけ。仕事から帰って、成功祝いの酒を飲み程良く酔いつつ、寝て起きたら既に生えていた。猫耳おまけに猫尻尾が。やけにキラキラした目で見あげてくる相方によると、どうやらそれらは神経が繋がっているらしく、時折僕の感情に伴うように動くという芸当まで持っているようだ。 「だってさ、白猫なんかまんまじゃん!イヴェールってさ、ツンツンした白い肉食動物似合うもん」 「似合うもん、とか気持ち悪いこと言うな!これじゃあ外に出られないだろ!今日はノエルに手紙出す予定だったのに、」 実家に残って人形を作ったり、色んな雑事をこなす妹と手紙のやり取りをすることは、僕にとって心のよりどころで癒しなのだ。すごく絶望的な気分になって、座っていたベッドに倒れる。新たに生えた耳が動いたのだろうか、だらしなく口元を緩ませたローランサンは、僕と視線を合わせるために床にかがんだ。そしていつの間にか手に持っていたものを、すちゃりと頭に装着する。 「そんな悲壮な顔すんなって。ほら、これで俺もお揃い」 装着されたもの、カチューシャに貼り付けられた猫の耳、猫耳。動きも何のオプションもない人工の耳は、ただ虚しさを増すだけだった。良い年した大の男二人が、昼間から何をやっているんだろう。そう言おうかとしたけど、呆れが先だって溜息しかでてこない。僕達の稼業は変装が多いから、色んな道具を持ってたりしても、こんな酔狂な物は初めて見る。 「…どこからそんな物出した?ていうかお前が猫耳着けてもなんの解決にもならないよな」 「先週あたりに賢者から貰ったんだよ。知り合いから譲ってもらったけど使わないからって」 「……譲ってもらったなら使えって…!いや賢者が使ったら使ったで寒いけど!」 一瞬、ローランサンも同じことを考えたんだろう、モノクルを煌めかせた知人の頭に生えた耳を想像して、部屋に複雑な沈黙が降りた。ローランサンは漂う微妙な空気を振り払うように、両手をぱん、と打つ。 「ま!楽しまなきゃ損だ。折角普段ないことが起こったんだし」 「楽しめるのはお前だけだから」 「じゃ遠慮なくー。これ触っても良い?」 「触るな!」 疑似猫耳を装着した相方が手を伸ばすのを、断固阻止しようと頭に両腕をかざすと、この行動を見越していたようで、にやりと近くの口角が上がった。 「俺は耳を触るとは言ってない!」 「くそ、やめ……あっ!?」 予想外に、握られたのは、尻尾。一気に体が硬直して、力が入らなくなる。ぞくぞく走る、痺れみたいな感覚に自分が信じられなかった。 「この、やめろ馬鹿っ」 ローランサンは、うっとり尻尾の手触りを確かめるように、きゅっと掴んでは撫で上げる行為を繰り返す。知らなかった。そんなに猫が好きだったのだろうか、この相方。 「イヴェ―ル、すごい良い」 ぎしり、ベッドを軋ませたローランサンに、体を捩る。猫にとっての急所を抑えられて、良いように遊ばれている屈辱と、抗いがたい痺れが体を支配して、思わずローランサンの頭を掻き抱いた。すると、思ったより柔らかい手触りが伝わってきて、思わず掴んでしまう。 「これ、実は高級品?」 「ん、結構気持ちいだろ?賢者にしては趣味良いよな」 「…賢者だからこそ趣味悪い、の間違いじゃ」 ふにふに、中はゴム製で出来ているようで、程良い弾力が気持ちいい。まるで猫の肉球を模した玩具で遊んでるみたいだ。少し楽しくなって、ローランサンが触っている尻尾はあまり気にならなくなる。ローランサンは猫と言うより犬だと思っていたけれど、こうしてよくよく見れば、結構似合ってるじゃないか。 しかし、ふと鼻をつき始めた、部屋の空気とは異なる匂いと、ローランサンの言葉は、僕を凍らせた。 「あとさ、これ触るとマタタビの匂いするんだって。猫ってマタタビの匂いかぐと嬉しいんだよな?確か」 何だと。 「ちょ、ローランサン、それ先…に」 「え、イヴェール!?」 マタタビが猫にもたらす効果を詳しく知らないのだろうか、ローランサンは急に腕をぱたりと落とした僕に慌て始めた。 マタタビ、それは、マタタビの中にある物質によって、猫の神経を刺激し性的快感を与えるものである。 「どうしたんだ、体調悪いのか?」 髪を掻き上げられ、こつり、額と額が合わさった。ローランサンの高い体温が今は冷たくて、目を細める。他人の体温、特にローランサンに限っては、時々僕に鎮静剤のような効果を与えるのだ。安心する半面、でも余計近くなった距離が、匂いを強めて、息が荒くなってきた。急に、喉が渇く。 「ローラン、サン…」 目の前にある、薄い唇がやけに美味しそうに見えた。そこから先は、記憶がない。 正気に返ると、潤んだ目をした相方が肩で息をし、僕の首元で突っ伏した所だった。「もうお嫁にいけない…」という呟きへ馬鹿、と返して、頭痛がしてきそうな状況に、まだつけっぱなしの猫耳とつきっぱなしの猫耳は思考から追い出されたのだった。 お待たせしました、猫耳生えた盗賊の触りあいっこ(?)です!にゃ、にゃんにゃんシーンは井戸に食べられてしましまった上に、ロラサンについては普通の猫耳ですいませんorz 駄目だったらまた書きなおしますので、いつでも一言どうぞ!それでは、繋がるロマンをありがとうございました>< また語り合いましょう! |