――後15分で施錠です。残っている生徒は……

校内放送に意識がさっと手繰り寄せられ、ぼんやりと霞む視界が此方を覗き込むイヴェールに焦点を絞った。やけに顔が近く、首元が冷えている。疑問に思って下を向けば、丁度細い指先が勝手にシャツのボタンを開けている所だった。危ない。

「自重しやがれこの変態」
「何とでも」
「……寒い」
「我慢我慢」

イヴェールは俺の首筋に顔を寄せると遠慮の一欠けらもなく噛みつく。ちくりとした痛みの後、噛まれたすぐ下の筋肉を慰めるように舐められる。気持ち悪さとくすぐったさの中心をなぞる感覚に目を細めてから、俺は目の前の机を蹴って彼の体を追い出した。無機質な乾いた音が廊下の奥まで響いた感じがして、改めて人気の無さを自覚した。二人だけの世界、有り触れたちんけなコピーが頭を掠めて慌てて首を振って追い出す。

俺が寝ていた間に完成したであろう欠陥だらけのマフラーを隣から拾い、制作主の顔をめがけて投げる。紐の始末が解らなかったのか簡単に数段解け、イヴェールは「あ」と呟いた。その隙に勝手に乱された首元を元に戻して、素早く帰る支度を整える。

「あー……」

折角ここまで、ぶつぶつ文句が聞こえるが自業自得だ馬鹿野郎め。こっそり舌を出してすっきりした所で、俺は抜き足差し足でイヴェールの背後を取る。

「ま、後は頑張」

くるりと回転してそのままこの場をカッコよくに立ち去ろうとした俺は、しかし敢え無く腕を掴まれてあっさりイヴェールの毒牙に囚われた。

「れるかよ。関わったからには最後まで面倒見るのが全人類共通のモラルだろ?」

このイヴェールねちっこさはゴキ○リホイホイ並みだった。

「そんなモラルいらない。俺もう疲れたから家帰って寝る」

わざとらしく欠伸をしながら言うと、イヴェールは少し逡巡してからぴっと指を二本立てる。俺たち二人の間に無償の愛かっこわらい何てものは存在しない。ギブアンドテイクの交渉開始の合図だ。イヴェールのギブが何であれ、俺のテイクが何かは深く考えたくなかった。

「……ぶたまん二個」
「それと単三電池」
「あ、ゴム切れてたかも」
「リア充はこっちくんな馬鹿、変態うつるから」
「輪ゴムだバーカ」


単三電池を買わなくて済むことに気を取られて、俺は笑いながらその場を流してしまった。












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