Target宍戸亮03 |
そして稀李は白石達の居るところに戻る。 「イェーイ!聞こえてた?時間稼ぎサンキュー。」 稀李がこの場を離れたのはこのことを宍戸に聞かせるためだった。白石は宍戸の足止め、稀李は鳳をここまで連れてくる。始めから仕組まれていたイベントだったようだ。 「はっきり、かっきり、かっちり、しっかり聞こえてたわ、なぁ?宍戸クン?」 「嘘だ…嘘………お前らが、…脅して……無理やり……。」 今、鳳が言った言葉を宍戸は受け止めきれていない。 「今、君は、私の、ワイの態度を見てたんか?私は鳳の前ではヤンチャっ子なんよ?それに…今、君はワイの本性を見てるんだよ?もっと誇りに思うべきや!」 「俺、は!信じない!お前がッ嘘だぁ!」 「信じなくても、いいけど…鳳が言った言葉は本当だよ?本心で、本音で、鳳が今お前に対して持ってる思いだよ。」 「嘘だ嘘だ嘘だ!長太郎が死ねだなんて、俺の敵だなんてッ…。」 「しつこいなぁ、本当のことだって言ってんじゃん。しつこいのって私きらぁい。ってことで、信じるまで、聞かせてあげる。」 そして取り出したるは、録音機。先ほどの稀李と鳳の音声が録音されてる。一介では絶対に聞き入れないと予想していたので、予め準備していた。用意周到である。 「うあああああ、ああやめっやめてくれぇええああああ死死あししししぁああ あ あ あ !!」 それをエンドレスで流す。耳を塞いでいた宍戸だが、白石と稀李によって塞ぐことが出来なくなった。二人が宍戸の腕を拘束したのだ。 暴れるが、止めてあげる。 聞きたくないと言っても、聞かせてあげる。 それが、親切心ってものでしょう? そして少し経って、宍戸が体の力をフッ…と抜いて座り込んだ。 ブツブツ言っているが、聞き取れない。稀李はしゃがみ込んで、宍戸の顔を覗き込む。 どんな顔をしているんだろう? 絶望した顔かな? 怒った顔かな? もう、何でもいいや。それが楽しめれば、 そして実際宍戸がしていた表情は、 無表情。 二人はその表情を見て、満足げに微笑んだ。 稀李は自分の口を宍戸の耳元へ近づける。囁くように、諭す様に、宍戸に語りかける。 「ねぇ、宍戸クン…この境遇バカらしいって思わない?君はあの人たちを信じてやってるのに、なんで君は誰にも信じられてないんだろうねぇ。悲しいねぇ。私なんて口止めされてることを教えてもらえる位の信頼を貰ってるって言うのにねぇ、長い間連るんできた君を簡単に捨てて、簡単に虐めて…。可哀想、本当に可哀想。君は何もしてない、何もやってない。ただ、ターゲットにされてしまった。それにはどんな罪もない罰も無いはずなのに…勝手に仕出かしたってされる行為をただ黙って作り上げられるところを見るしかない、本当にかわいそうな子。私が慰めてあげるよ。」 宍戸の背中に腕を回して、ポンポンと撫でる。 「本当にこのまま君はいつまでもあいつらを信じていける?イエスと答えるのなら、君はお人よしだ。ただの偽善者だ。それが自分で自分の首を絞めてることになるんだよ。こんなの不条理じゃない?ねぇ、今の君はどう思ってるのかな?」 「……。」 返事がない。 「なんや、宍戸…廃人にでもなったんか?」 「―――。」 宍戸の口から小さく言葉が聞こえた。 「ん?」 「お前ら…復讐してくれるんだろ?してくれよ、アイツらに…みんなに……。なぁ、俺は復讐してもいいんだよな?」 「うん、復讐してあげるし、君は復讐してもいい。私が保証してあげるよぉ?」 「だったらよ、俺をこんな目に遇わせたみんなを同じ目に、遇わせたい、後悔させたい。」 宍戸の目に宿るのは、もう希望なんてなくなっている。何もない、虚無を映してると言っても過言ではない。 「嗚呼こんにちは、ようこそこちらの世界へ。あちらの世界にお別れの挨拶はしてきたぁ?」 「そんなもの必要ねぇ、俺はあちらの世界から追い出されたんだ。別れなんて、今更だぜ。」 「フフッ…私達は君を受け入れよう。さぁ、この手を取って?」 稀李は宍戸から距離をとり、手を前に出す。宍戸が稀李の手を取るのに少し躊躇するかと思ったが、そんなことは無くすぐに稀李の手を取った。 「俺を受け入れてくれてサンキュ、なんか吹っ切れたぜ。何も俺が我慢する必要性なんてなかったんだな。昔の俺って今思えば愚の骨頂でしかなったな。」 「その愚の骨頂を眺めておくことが私たちの楽しみだったんだよ。」 「フン、その発想これからは嫌いじゃねーぜ?」 「君もこれからはこっち側で、その風景が楽しくなっていくんだよ。」 「俺以外の奴らが虐められたら俺もそれを傍観するぜ、今から楽しみだ。」 |
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