※白石くん女体化
くら、
そう呼ぶ千歳の声はいつも優しい。そして今もそれは俺の胸をざわりと疼かせ、かと思うとふんわりと包み込むのだ。促されるように顔を上げれば目が合う。今度はこめかみに唇が落とされた。流れるようなこの仕草に心臓がおさまる事はこの先、多分ない。
「なぁ、今日、天気良えなぁ」
柔らかな陽気がフローリングを照らす。ソファーに腰掛け身を寄せ合いながら過ごすのがいつもの二人の休日の過ごし方だ。そうやねー、そう答える千歳の声はいつもより少しおっとりしている。今なら言えるかもしれない。意を決して首元に預けていた頭を起こし千歳の目を見つめれば、聡い彼は瞠目し口を閉ざす。
また、その顔。怒るでもなく無視するでもなく、ただただ困ったように眉尻を下げる千歳に期待していた心ががくんと落ち込むのが自分でも分かった。
「……俺もデートはしたかよ」
「じゃあ、」
「ばってん、くらがじろじろ見られとうと落ち着かん」
そう言って千歳は首をソファーに預けると、天井を仰いでふー、と一つため息をついた。予想だにしなかった千歳の言い分に拗ねていた気持ちが一気に羞恥へと変わる。どう反応したらいいか分からず、俺は静かに千歳へ向けていた視線を陽光に照らされたフローリングへ移した。結局アホちゃう、と呟くのがせいぜいで、けれど多分強がっているのも、千歳の言い分を嬉しがっているのも、分かってるんだろうなと思うと居たたまれなかった。
「むぞらしか彼女持つんも大変やね」
俺の胸元まである髪の毛を千歳の大きな手がゆるりと掬い取り、撫でる。本人には言わないけれど、実はこの動作が好きだったりする。後、寝起きの柔らかなキスも。髪の毛を弄びながら視線を落とす千歳を穏やかな気持ちで眺めながら、せめて、という気持ちで思いを口にしてみた。
「夜でも、あかん?」
ゆるり、視線があがり、俺を捉える。
きっと夜になれば暗がりで顔はあまり見えないだろうし、他の恋人達も自分達の事しか見えていないだろう。望みをかけてじっと見つめてくる瞳をこちらも射抜くように見つめれば、押しに弱い千歳であるから頷かない訳がなかった。
「……しょんなかね」
「ほんま?おおきに!」
その顔は渋々といった感じではあったがこれで久々のデートができると思えばなんて事はない。嬉しさを千歳の首に腕を回しながら述べると、その勢いに気圧された千歳は驚きつつも体を受け止めてくれた。何をしようか、何を着ていこうか。まだ先の事だが想像するだけで口角があがる。この間謙也と買い物に行った時に買ったスカートをはこうか。それにあのマフラーを合わせて。ブーツは茶色にしようか黒にしようか、なんて。
際限ない想いは全て彼に直結していく。むぞらしかね、そう言ってくれる千歳を想像しながら彼の胸に顔を埋めた。
「あ、ばってんスカートはいけんよ」
「えー…」