冬休みに入って暫く経った頃千歳から連絡が入った。どうやら年越しを熊本で過ごす為一時帰省するらしい。見送りに来い?嫌やボケ。



冬独特の凛と澄んだ空気を肺一杯に吸い込む。この寒空の下、なんやかんや駅のホームに立っている俺。金が無いという理由から寝台列車で行くという千歳に合わせてしょうがなく来てやったのだ。いつもよりシャツを多めに着てマフラーをぐるぐる巻いておまけに腰にはホッカイロ。防寒対策ばっちりなこの姿にも関わらず、冷たい風にぶるりと身体が震えた。

そして、目の前にはいつもより少しだけ荷物の多い千歳。


「暫くお別れやね」
「もう戻ってこんで良えで」
「そしたら白石が寂しがるけん無理ばい」


スピードスター並みの速さで辺りを見渡す。人影の少なさにほっとしつつも人の目をはばからない目の前の人物には仕置きをしなくてはならないようだ。その身につけているマフラーで首を絞めてやろうか。すっと細めた瞳で千歳を捉えながらコートに突っ込んでいた手を外気に晒す。ガタンゴトン、手がグレーの布を掴む一歩手前で列車の音が聞こえた。どうやらもうすぐそこまできているようだ。逡巡し、残り少ない時間を有効に使う方が良いかと出した手をそっとコートに戻した。


「いつ帰ってくるん」
「んー1月上旬位には帰ってくるつもりばい」


全く寂しそうな顔をせず、それどころかいつもより嬉しそうにしている千歳の態度が少し面白くなかった。けれど考えてみればこれは千歳にとって家族との久々の再開。嬉しそうなのは当たり前か。そう思う反面やはり少し位は恋人との別れを惜しんでくれてもいいのに、とも思う。自分の中でも整理のつかない想いを持て余しながらそうか、と呟いた。

列車の音が近づく。

今年千歳と会えるのもこれで最後と思うとやはり寂しさが募る。先ほど確認した時に人影はあまり居なかったけれど、念の為にもう一度。よし、居ないな。


「千歳」


口元まであげていたマフラーを指でくいっと下げ少し背伸びをして唇にキス。キョトンとしている千歳に餞別や、と言ってやれば彼はへにゃりと嬉しそうに笑った。けれどそれも束の間。すぐに意地の悪い顔をして両肩をぐっと掴んできた。


「嬉しいばってんちぃと足りん」


そのまま体を引き寄せられもう一度重なり合う唇。けれど先ほどのように穏やかなそれではなく呼吸さえも奪われてしまいそうな荒々しい口づけに思わず目を瞑った。差し込まれた舌は性急な動きで口の中を蹂躙し俺の心から余裕をはぎ取っていく。一向に口を離さない千歳にたまらず声を漏らせばそれに反応するように腕の力が増した。苦しい。くらくらする。けれどやめてほしくはなかった。ようやく解放されれば酸欠から足元が覚束ず、千歳の腕に抱き込まれる。呼吸が落ち着いてきた頃、仕上げとばかりにかすめ取るようなキスをされた。


「白石」
「……なん」
「帰ってきたらデートすったい」
「嫌やアホ」


優しく笑う千歳の後ろに列車が見えた。そっと腕の中から抜け出す。扉が開きじゃあ、と乗り込む千歳の後ろ姿に意を決して一言。





「帰ってきたら一番に会いに来てや」



これが俺の精一杯
(振り向いた君の顔といったら!)



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