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例えるなら、デキスギ君の中身がジャイアンだった、みたいな。
まぁ、そんな感じだ。
「おっつかれ〜かいちょう」
「あぁ?」
髪をうっとうしげにかき上げてネクタイを弛めた辻塚は、さっきまで講堂で話していた真面目な優等生とは似ても似つかない。
また眉に皺が寄っている。
全校生徒の前では絶対に見せないだろう姿だ。
「稲葉」
面倒そうにオレの名前を呼ぶ男に向かって、笑いながら眉の間をトントンと指してやる。
「また皺よってんぞー」
「チッ…うるせぇな」
辻塚の家は代々続く名家で、親の親の世代からこの学園での主席を維持して生徒会長を務めあげるということを身に叩き込まれてきたらしい。
歳の離れた兄もこの学園で、姉は姉妹校でそれぞれ生徒会長を務めあげた。
なんで幼稚舎からこの学園に進まなかったのかと聞けば、これまでは家の方針で公立の中学に通っていたのだと辻塚は面倒そうに答えた。
ボンボンにありがちな社会経験を積むってやつなのかもしれない。
まぁ、この学園の生徒会長ともなれば、各界の有名どころと繋がりが出来るだろうからな。
家族全員一芸を持つ芸術一家で、進路は自分で好きに決めろと言われている自由なオレとは育った環境からして違う。
「うるせぇなって、オレねぎらってやってんだけどー」
「なんでお前にねぎらってもらう必要がある」
地はこんな俺様なのに、教師や親どころか友人の目の前でさえ完璧に優等生を演じている。
辻塚の計画では、兄達よりも完璧な優等生を演じきって搾り取るだけ搾り取った後、自分から家を捨ててやるのだという。
そんな男がなんでオレに地を見られるというヘマをしたか。
どうやら、これまで溜りに溜まっていたうっぷんが能無しな教師のせいで爆発してしまったらしい。
「じゃまだ、どけ」
ふん、と鼻を鳴らして、それでもオレの隣に腰をつける男が、心底愛おしくなる。
「なぁ〜、辻塚」
「なんだ」
「オレとえっちしない?」
そう言ったオレを、辻塚は呆れたような表情を張り付けて、白い目でオレを見た。
「お前、とうとう脳みそが腐ったのか」
「辻塚会長、口が悪いです」
「うるせぇよ」
この場面を見たら、生徒会の連中も教師も全校生徒もみんな腰抜かすんじゃないかと思う。
あーあー。
こんな男に惚れちゃったオレはどうしたらいいんだろ。
男でもなぁー…可愛い感じのネコちゃんしか食指は動かなかったんだけどなぁ。
なんでこんな下手したら自分よりも男らしい男に惚れてるんだか。
しかも、口が悪くて俺様全開の猫かぶり野郎。
…でも好きになっちまったんだもんなぁ〜。
「いーじゃん。やろうよ」
「寝言は寝ていえクソが」
綺麗な顔からこういう品のない言葉が出てくるってすげぇよなぁ。
なんていうか、もっと下品で卑猥な言葉とか言わせたくなる。
「いい加減この学校の特殊環境にも慣れただろ〜?」
ていうか、辻塚は1年の頃から親衛隊だのなんだのが出来ていたし、ネコちゃんたちからのアプローチも多いと聞いたから今更だろう。
それにノッたっていう話は聞かないけど。
「中学で童貞捨ててんならいいじゃん。オレ、割と上手いって評判よ?気持ちよくすっから」
オレの言葉に、辻塚は額に手を当てて忌々しそうにオレを睨んだ。
イライラしてんなぁ。
イラついた時の癖なのか、額に当てていた手で前髪をガシガシと乱しながら目線だけオレに向けて言葉を吐き捨てる。
「……てめぇが下なら考えてやってもいいぞ」
「え?マジで?別に良いけど」
意地の悪い顔で、さも“困れ”と言わんばかりににやりと笑う男に即答してやる。
そっちはやったことないけど、まぁ、辻塚よりは場数こなしてるだろうし。
経験慣れしてる方が折れてやるのも男ってもんだ。
だってまぁ、好きになっちまったもんはしょうがないし。
惚れた弱みってやつだ。
「………冗談だ」
オレが即答するとは思わなかったのか、辻塚は眉にぎゅっと皺を寄せて口元を引きつらせている。
「そういう冗談はやめてくださ〜い」
今ちょっと期待しちゃったじゃん。
ま、やっぱり抱かれるよりもこいつを抱きたいんだから結局意味はないんだけどさ。
半分あきらめながら制服からライターを取り出すと、隣に座っていた辻塚が心底嫌そうに眉をしかめた。
「おい、いい加減それはやめろっつったろ」
「え?あー…あぁ、そうね……だって口寂しいんだもん」
「男がだもんとかいうな気色悪い」
「…それ、お前の取り巻きに直接言ってやれよ」
男子校だというのに、きゃあきゃあ黄色い声を上げている下級生にいつも笑いかけているのはどっちだ。
「関係ねぇだろ」
さっきオレの言った発言も、冗談で言ったと解釈して片付けたんだろう。
すぐに無関心な顔で目を逸らされた。
全く、オレは本気だっつーの。
自分が襲われる側に回る可能性があるってことは一切頭にない表情だ。
「おい、やめろって言ったのが聞こえなかったか」
無意識に口元にタバコをくわえようとしていたオレを、辻塚がイライラと制止する。
柄は悪いのに根が真面目なこいつは、オレがタバコを吸ったり酒を飲んだりするのが気に食わないらしい。
そういう所は、確かにいいところのおぼっちゃんだ。
一度、家に逆らって試してみたことはあるらしいのだが、自分には合わなかったのだと前にも聞いた気がする。
オレは、まぁ…連れに合わせてやってたらそのまま癖になった感じだからな。
そりゃ、最初からこれをうまいって思う奴の方が珍しいだろう。
辻塚の場合は、これに得るものは一切ないと感じたらしい。
「やめろ。オレに匂いがうつる」
「……はいはーい」
逆らえねぇ…。
好意を持ってしまっただけに、始末におえない。
くわえたたばこを元に戻す。
仕方なくライターを懐にしまうと、なにかを放り投げられて足にボスッとあたった。
「もの投げんなっつーの」
「こいつでも食ってろ。それよりはましだ」
「え、なにこれ」
「みりゃ分かるだろ」
渡されたのは、小さな棒つきキャンディ…。
パッケージには大きな頬とかわいらしく舌を出した赤いリボンの女の子。
「買ったの?」
辻塚が?オレのために?
「…もらいもんだ」
袋ごと?
顔を覗き込むと、不機嫌な表情のわりに耳が少し赤くなっている。
「………」
なにそれ、ちょう可愛いんですけど。
ていうか、なんでこれを選んだ?
尋ねると“棒があった方がいいのかと思って”だそうだ。
いや、それでヤニの代わりにはなんねぇって。
「辻塚ってさぁ…」
「あぁ?」
「わりとオレの事好きだよね」
「は?ふざけんな」
即答してくるあたり可愛いとか思っちゃうオレも、ホントどうしようもないんだけどさ。
全校生徒のだれにも見せていない、こいつのこんな姿を見れるのはオレだけ。
辻塚自身も、一度ばれてしまったオレにはくだけた表情を良く見せるようになった。
その事実が、どうしようもなく胸をざわつかせる。
「なぁ、辻塚」
「あ?」
「マジで、考えてよ」
「……んだよ」
「さっき言ったこと」
「…なんでオレがお前とセックスしなきゃなんねぇんだ」
「オレが、辻塚修司を好きだから」
忌々しそうに吐き捨てる辻塚の目をじっと見つめる。
少しだけ真剣な顔を作ったオレに、辻塚が少したじろいだのが分かった。
「ま、今日はこれだけでガマンするけど」
「…っ」
びくりと身体を引く辻塚の肩を引き寄せて。
完璧でいて、どこか無理をしているような。
そんな愛おしい男の頬に、ゆっくりと唇を寄せた。
*end*
ねこかぶり会長…!腹黒会長かんわいい!!!俺様口悪い腹黒なのになんですかそのツンデレは…!かわいい…!!
なんだかんだ辻塚くんが稲葉くんのこと大好きでもうつらい…!禿げるつらい…!チャラ男攻め…!好きだ…!!!
ヒガシさん、素敵な小説ありがとうございました…!!
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