すき、きらい、すき、 | ナノ





「んうう…っ!!」



シーツを握り締めながらびくんっと大きく仰け反る背中。無駄のない、しっとりと汗に濡れたしなやかなそれは、酷く綺麗で。緊張して突っ張る体を、フェラで気を散らして緩めながら中を弄る。

そう、問題はここからだった。
きっと中は、さっきまでの無理矢理な行為のせいで傷ついているはずで。だからここから先はいくら煽られようとなにがあろうと乱暴にするわけにはいかない。そう改めて自分を戒める。



「あ、ひっ、んんっ!」
「大丈夫か、桐生?」
「っ、やあっ、久谷…っ」



口で前に奉仕しながら丁寧に中を解していく。そっと二本に増やした指で、位置を忘れるわけもない前立腺を優しく撫でてやれば、痙攣を起こしたかのように桐生の体が震えた。同時にとぷっと前からさらに吐き出された透明な汁を、ぢゅっと吸い上げてやる。



「あ、ああ、あ…っ」
「んっ、きりゅ…」
「や、だめ、も、そこ、ひっ…」



段々と膨らんでくるシコリを優しく撫で続ける。快感を得ようとうねる中とひくつく入り口。十分解れてきたのを確認して、三本目を中を拡げるように入れてやる。捕まえている腰が快感からどうにか逃れようと、びくっびくっと脚がシーツの上を滑った。



「ああっ!も、そこっ、やああっ」
「ん…も、イケよ…っ」
「も、あ、ああ―――…っ!」



尚も後ろを解しながら仕上げとばかりに口に含んだ尖端を舌で抉れば、矯声と共に白濁が勢いよく口の中に吐き出された。口内に広がるそれを溢さないように喉の奥へと運ぶ。
正直な話、最低なことに俺は色んな奴らに散々フェラをさせてきたにも関わらず自分がするのはこれが初めてで。当然人の精液を飲むのも初めて。喉を動かして飲み下して、ぐいっと手の甲で口を拭った。
確かに苦い―――けれど、どこか甘い気がするなんて言ったら、お前は引くかな。

そんなことを思いながら顔を上げた俺は―――目に飛び込んできた桐生のあまりの艶やかさに、こくりと喉を鳴らした。



「くそっ…好き勝手、しやがって!」
「きりゅ、」
「いい加減、はやく来いよ…!」



汗にしっとりと濡れて上気した体。感じすぎたせいか、整わない荒い息にぼろぼろと溢れている涙。自ら片足を持ち上げて、俺を睨み上げながら蕩けきった体をあられもなく晒す姿に、下半身が痛いほど張りつめる。
くっそ、俺の気遣いを無駄にしようとしやがって。俺だってやっていいものなら、早くお前の中に入りたい。だけどそれはしないって決めたんだ。お前を傷つけないと決めたから。

しかしそんなこと関係ないとでも言うように誘ってくる桐生。人の気も知らないで、と内心独り言ちつつ、そう誤魔化しながらも想い人のそんな姿に煽られないわけがなくて、ベルトを取る間も惜しく引き千切るようにして抜き取った。持ち上がった脚を抱え、がちがちになった自身をひたりと入り口へと宛てがる。



「くっ、桐生、入れるぞ…っ」
「んんんん…っ!」



ずっと尖端を挿入する。しかしそこからはうねって中に中に引き込もうとしてくる中の動きに抵抗しつつ、ゆっくりと奥へと入れていくことに全神経を注いだ。あまりの気持ちよさに突き上げたい衝動を堪え、傷つけないように、負担をかけないように、ゆっくりゆっくり中を進んでいく。



「や、あ、なんで、も…っ」
「はっ、く、桐生…」
「あ、あ、んんんーっ!」



ゆっくりと進む分全てをじっくりと感じてしまうのか、耐えられない、というように振られる頭。綺麗な黒髪がシーツに擦れてパサパサと乾いた音を鳴らした。抱えた脚がびくんと跳ねる。耐えるように固く閉じられた目の端から溢れる涙をちゅっと吸った。



「はあっ、はっ、はー…」
「はっ、ん、くたに、くたに…っ」
「桐生…っ」



ずんっと最後まで挿入し終えて、はあっと熱い息を吐く。なんだかそれだけで最高に満たされているような気がして。そのままぎゅっと抱き合って、しばらくその幸せな気分を堪能する。
幸せで、幸せで、幸せで。桐生とこうして繋がれていることが夢みたいで、無性に泣きたくなった。どうしようもないこの幸せに、涙が溢れそうになる。


しばらくそうしていると、お互いの息遣いしか聞こえない中、ははっと桐生が震える声で笑った。



「あー…やばい、幸せすぎて泣きそう」



そう言って、端整な顔をくしゃりと歪める桐生。
たまらなくなって、ぎゅうっと体を抱き締める。伝わる鼓動。震えていたのは、どちらかわからない。



「俺も…俺もだ、桐生」
「っ、久谷…っ」
「大丈夫、幸せになろう…絶対に」



幸せなのに泣きたくて、幸せだから泣きたかった。
本当に、どうしようもなく桐生がいとおしいと思った。



ゆっくりと律動を開始する。背中にしがみついてくる腕。蕩けきってぐちぐちと音を鳴らす中は、俺をくわえこんで離さない。



「んんっ、はっ、すきだ、桐生…っ」
「あ、んんっ、くた、にっ」
「はあっ、は…っ、あいしてる…っ」



負担にならないようにゆっくりと動きながら、ありったけの想いを囁きながら、キスの雨を降らした。
泣きそうに顔を歪めて、桐生は笑う。



「んっ、ふ…くっ」
「あ、あああっ…!」




お前が負った傷を癒してやれるくらい、愛を注ぐから。
お前が前を向けるようになるまで、いくらでも惜しみなく愛すから。



(もうこれからは―――幸せの涙しか、流させない)



こいつの俺に関しての涙は、すべて幸せなものにしてみせる。
そう胸の奥で誰にともなく誓いつつ、目の端から溢れ落ちた一筋の雫に口づけた。






*end*




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