すき、きらい、すき、 | ナノ




「うるせぇよ、お前ちょっと黙れ」
「んっ、んんーっ」
「あーもう、わかったから、俺はさっさと入りてぇ」



そう一方的に呟いて真っ白のバスローブを引き剥がし、なにも触っていないのにすっかり出来上がったような体を押し倒す。華奢で生っ白い女のような体には正直まったくそそられなかったが、突っ込めばなんとかなるかと後ろへと手を回した。我ながら最低な思考回路。せめてもの前戯として、最初は入り口を刺激しようと軽くなぞるつもりだった指が、しかし軽く入り口をつついただけで簡単に中に入ってしまった。



「ひああっ」
「えっ?は?」
「はっ、あん、久谷様ぁ…」



もうすでにとろとろに蕩けている中をかき混ぜれば、面白いようにびくびくと跳ねる体。おい待て、こいつまさか、準備って後ろの準備まで万端だったのか。驚きつつ指を増やせば、ひんひんと上がる啼き声。とろんとした快感に溺れた瞳に見つめられ、もっとと続きを求められる。
しかし、なんだか急に冷めて面倒くさくなってしまって。ふいに指を引き抜くと、俺はそいつの隣に寝転がった。



「あー…やめた」
「えっ、あのっ、久谷様っ…?」
「お前、乗れよ」
「えっ?」
「自分で動けって言ってんの」



欲情できるやつを相手しているわけでもない今、自分が動くのは酷く面倒くさかった。いや、さっきまでは動いて発散しようと思っていたのだが、派手に喘ぐのを見ていたら急に面倒くさくなったのだ。おまけにさっきから、やつの反応が見えてしまう度に桐生の姿が脳裏にチラつくからやってられない。

あいつなら頼んでもいないのに自分の後ろを解したりしない。あいつならこんな甘ったるい匂いはさせてない。あいつならこんな声は上げない。あいつなら簡単に快楽に溺れようとはしない。
あいつなら、あいつなら、あいつなら―――…そんなことしか考えられない頭が、もう、どうしようもなくて。



「そ、それじゃ…失礼します…っ」



すぐに嬉々として跨がってくる体。
自分から言ったことなのに、それにさえこれは違う、こんなのを求めてたわけじゃないと思ってしまうから、始末に終えない。



「ひあっ、あっ、くるっくるっああんっ」
「……っ」
「あうっんんんんっ、はいっ、たあっ…」



ぬぷぬぷと喰われていく俺のモノ。とろとろに蕩けて温かい粘膜に包まれて、さすがにはあっと熱い息を吐き出す。さすが、慣れているだけある。これならイケそうだ。
俺の腹に手をつき、挿入の快感にひくひくと震えている体。包み込みながらうねる中はそれだけでも気持ちよかったが、もちろんそれだけで足りるわけもなく。動きを促すように、下から軽く突き上げた。



「ひゃああんっ」
「ほら、動けよっ」
「あ、あっ、ふううっ、ひああんっ」



ゆるゆると動き出した細い腰。こういうやつには、最初の一歩を促してやるだけで十分だ。段々と速くなっていく腰の動きに感心しながらゆるゆると太股をなぞる。かわいい顔を歪めて快感を貪る姿は、確かにそそられるものなのかもしれない。

しかし―――ぐじゅぐじゅと派手な音を立てて動く腰は、腹筋もなにもついていない、華奢すぎるもので。



「あっあんっ、ああっあううっ!」
『や、あ、うあっ…も、くそ…っ』



部屋に喘ぎ声を響かせる唇は、耐えることを知らない、すぐに善がり派手に啼くもので。



「やあんっ久谷様ぁっ、きもちいいれすぅ…っ!」
『はっ…も、むりだ…あ、たすけ、くたにっ…!』
「……くっそ…!」



重なる影。カッと一瞬で血が上る。
襲ってきた衝動に身を任せ、有無を言わせず体勢を変え押し倒す。喘ぎ声か、抗議の声か、なにか声を上げようとする口を無理矢理押さえつけ、がつがつと激しく腰を打ち付けた。



「んーっ!んんんんっ」
「っは、あ…っ」
「んんっ、んー…!」
「……っ、くそっ…」



脳裏に浮かぶのは、桐生の姿。
俺に押し倒され、蹂躙され、艶かしく乱れるあいつの姿。



「ん、んんんんっ」
「っは…」
「んんーーーっ!!」
「くっ………!」



ドライでイッたのかびくびくと痙攣する中に、勢いよく叩き込む。逃げる腰を捕まえて最後まで出しきってから、盛りのついた猿のように振っていた腰をようやく止める。荒い息を吐き出しながら自分の下で動かなくなったやつを解放すると、酸欠のせいか、ひくひくと痙攣しながら失神していた。



「っはあ…はっ、はっ…」



荒い息。どくどくと煩い心臓。
どさりとベッドへと身を投げ出す。ゆるゆると腕を上げて天井に手をかざしながら、照明を消してなかったことに今さら気づいた。



「…は、ははっ…はははっ」



呆然と、なんとはなしに笑いが零れた。
上にかざしていた腕を下ろし、両手で顔を覆い隠す。かたかたとみっともなく震える手を誤魔化すように、ぎゅっと握り締めた。



「…嘘だと、言ってくれ…」



薄々気づいていた。できれば気づきたくなかった。もっと早く気づきたかった。気づくべきじゃなかった。気づかない方が幸せだった。
―――どうして、気づいてしまったんだ。



『お互い快楽主義で好きでもない。後腐れのない、いい条件だと思うがな』
『ちょうど飽きてきたところだったし、だったらもういいかって』



気づいてしまった想い。
面倒くさいと、厄介なものだと、今までずっとずっと忌み嫌い、避けてきたそれは―――けれど、甘いものでもなんでもなく。



「…はっ、サイアクだ―――…」



ようやく訪れた初恋は、気づく前から萎れていた。
きっともう、それが芽吹くことはない。






*end*




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