すき、きらい、すき、 | ナノ





「桐生様…夢のようです、貴方とこんなことができるなんて」
「っは…あ、くそっ」



悦に入った声で俺に喋りかけ、にこりと笑いかけてくる綺麗な顔。
ギリッと歯を悔い縛りながら俺の足の間にいる男を睨み付けると、くすりと笑って視線を俺の股間へと戻した。ペロリと自らの唇を潤すと、徐に俺のモノを口内へと含んだ。



「ッ!」
「ん、む、んんっん」
「やめ、やめろっ、くそっ、くぁ…!」



ねっとりと絡んでくる舌。生暖かく、ぬめり、柔らかい口内に包まれて、びくびくと体が跳ねる。おかしな声が出そうな口を手の甲で押さえつけ、必死に声を押し殺す。
嫌だ、最悪だ、嫌なのに。
反応する体が、溢れる声が、どうしようもなく、憎い。



「っく、ふっ…」
「んむっ…ふふっ、そんなに我慢なさらずともよいのに」
「くそッ、黙れ…!」
「そう強がらないでください」



ふわり、笑った顔は酷く綺麗なのに、過剰に潤った唇が卑猥さを演出する。ゆるりと起き上がってきた体が、俺の体へと重なった。しなだれかかってくるのは向こうなのに、けれど確かにその細い指が俺の後孔の周りを戯れのように触れる。それにぎくっとすると、俺の反応を少しも見逃さないとでもいうように見つめていた顔が、少し切なそうに笑った。



「申し訳ありません、桐生様。貴方が片想いならば、それは全力で応援する所存でございました…だけど貴方が、一方的に誰かのセフレであるなんて、許せない」
「ッ、や、いれんな…!」
「…なんて言うのは、建前、ですかね。やはり私は、堕ちてきた貴方を逃がしてあげられるほど、出来た人間ではなかった…!」
「―――ッ!!」



ずんっと一気に指を二本挿し入れられ、がくんと体が痙攣する。俺の先走りで濡れていたのであろう指がぐりっと中を掻き回すと、背中が不自然に引き攣った。


久谷以外に触られているのに。あいつ以外に触られたって、気持ち悪くしかないのに。鳥肌がたつほど気持ち悪いと脳は受け取っているのに。
それなのに体だけが―――どうしようもなく、俺を、裏切る。



「ああ…貴方はこんな痛みでも感じてしまうような体になってしまったのですね」
「黙れっつって…!」
「これが、我々が大切にお守りしてきた体…」
「っもち、わりぃんだよ!」



ぐちぐちと後ろを解しながらうっとりと目を瞑って俺の体に寄り添う男に、嫌悪の言葉を吐きかける。するとふっと持ち上がった瞼の下から現れた瞳が俺を見上げ、そしてなぜか、憐れむように緩んだ。



「そんか顔をなさらないでください…」
「なに、言って、」
「貴方は罪悪感に駆られる必要などないのです。確かに貴方は我々を利用したけれど…私は今、それを差し引いても貴方にそう言われて仕方のないことをしている」
「…っ!っあ、や、いああっ…!」



いったい俺は、どんな顔をしていたのか―――思わず目を見張った瞬間に襲ってきた強烈な快感。下半身から全身へと駆け回る甘過ぎる刺激に、堪える間もなくあられもない声が溢れた。



「ああ、ココですね」
「やだ、やめろっ、そこ、あ、ひっ」
「快感に身を任せた方が楽ですよ…大丈夫です、気持ちよくなれますよ、彼じゃなくとも」
「ふっ………!」



―――彼じゃ、なくとも。

わかってる。わかってるんだ。
あいつは、俺じゃなくたって大丈夫だってこと。今頃、きっとあいつはあのファンとヤってるんだろうってこと。この想いが、俺の独り善がりなんだってこと。

だけど、それでも俺は。
俺の方はお前だけだと思っていた。
いや、お前だけだと信じていた。
それなのに―――…



「―――…」
「ああ、泣かないでください、桐生様」
「っく、そ…!」
「大丈夫です…このまますべて、今はただ、流されていてください」



俺だけのお前など、求めない。
そうならないことなど、疾うにわかっていたから。



だけど、せめて俺は。
俺だけは―――お前だけの俺で、いたかったんだ。






*end*




back