「なんだこいつ、役員にハブられてんのか?」
ばさり、俺の横に書類を置いた久谷。そしていきなり、なんとまあ失礼なことを宣った。
ねぇよ、腰痛くて昼飯行けてねぇんだよ。てめぇのせいだてめぇの。ほんとムカつくコノヤロウ、と口には出さずに心のなかで悪態をつく。
「ったく、こんな鍵かかってないところで寝やがって」
ぽつり、落とされた呟き。驚いて一瞬目を開けそうになった。
な、んだこいつ、思ったことが全部口に出ちまうタイプなのか?俺の心配なんざ柄じゃねぇだろう、聞いてるこっちがこっ恥ずかしいからやめとけ。
なんて、先の自分を棚に上げて考えていたら。
「ふーん…寝顔は案外かわいいんじゃねぇの?」
「…―――っ」
前髪に触れられる感覚。
今まで聞いたことのない優しい声音。
かけられる信じられない言葉。
カッと体温が急激に上がるのがわかる。
「ん…?」
(サイッアクだ!!早くいなくなりやがれ…!)
「あー…なるほど」
(はっ……!!?)
唐突に、ちゅ、と額に感じる柔らかい感触。
瞬間、真っ白になる思考。
は、えっ?うっそだろ……!!
信じらんねぇこいつなにしやがっ…!
「っくく、耳まで真っ赤だぜ、タヌキくんよ」
「なっ…!!」
言葉を頭が理解した瞬間、反射的にガンッと音をたてて立ち上がる。
目の前にはニヤつく美形。ぐあっと更に熱が昂るのがわかって、咄嗟に右手で顔を覆った。
「信じらんねぇ!気づいてたんなら言えくそやろう!!」
「っは、てめぇがアホみたいに狸寝入りしてたらからかいたくもなるってんだ」
「てっめぇふっざけんのも大概に…っ!」
刹那、引っ張られる右手首とネクタイ。
つんのめり、バランスを崩して咄嗟に左手で久谷のシャツにしがみつく。文句を言おうとした口は、しかし喰らいつくように覆ってきた唇に塞がれた。
「っん、ふ…!」
ぬるりと侵入してきた舌に、俺のはあっという間に絡めとられる。撫でられ、吸われ、口内を刺激されて、体は跳ね、思考は白む。送り込まれた唾液が飲み込みきれずに口の端から溢れ落ちた。
―――あ、だめだ、これだめだ。
すぐに頭が回らなくなる。熱に浮かされたように、なにも考えられなっちまう。
無意識に、シャツに握る手に力が入った。
「ふっ…は、ぁ…」
「チッ、邪魔だ」
「あ…?」
唐突に体が離れ、支えがなくなり思わず机に両手をつく。置いてあった書類がぐしゃりと音をたてた。
「よっと」
「っちょ、やめろてめぇ何しやがる!」
「そりゃ何ってナニだろ」
「昼間っから盛ってんなこの獣め!っく…!」
「うっせぇよ、盛ってんのはてめぇだろ桐生」
余韻に一瞬だけ頭がボーッとしていたせいで、気づけば机を迂回してきた久谷に腕を一纏めに掴まれて後ろの窓へと押さえつけられていた。キスのせいで半勃ちになっていたモノをスラックスの上から握られ、喉の奥が震える。カチャカチャと器用にもベルトを外そうとする片手への抵抗も虚しく、あっという間に寛げられてしまう。
お前ほんとヤり慣れ過ぎだいい加減にしてくれ…!
「やめろこんな所で!誰かに見られたらどうする…!」
「あ?構わねぇんじゃねぇの、相手絞ってる分印象いいらしいし」
「てっめぇ、な、っ、ん…!」
「はっ、諦めろ、獣なのはお前も同じだ」
「ちょ、ぁ!それやめ、ひっ…!」
先端をぐちゅぐちゅと弄られ、いきなりの直接的な強い刺激に口から矯声が溢れる。膝ががくがくと笑う。弄られながら再び口づけられると、押さえられていた手が離れて解放されたところで抵抗などできるわけもなく、目の前の男にしがみつくことしかできない。
「っふ、ちょ、まっ!っ、や…!」
「ん?もう限界か?」
「や、めろ!イっちまうから…!ちょ、ぁ、やめっ」
「ほんとお前キス弱ぇなぁ」
いつの間にかネクタイもボタンも外されていたシャツの中、侵入してきたら片手に乳首を摘ままれる。先端ばかり弄られて先走りでどろどろになったモノを、射精を促すようにしごかれる。くつくつと愉快そうに笑う声と熱い息が耳に近くて、頭の芯がジンと痺れる。れ、と耳の縁を舐められた。
「ちょっ、ぁ、や…!」
「おら、イけよ」
「―――ッ!」
走り抜ける快感。跳ねる体。引き攣る喉。
荒い息を吐きながら、握り締めていたシャツから手を離す。伏せていた目を上げると、俺が吐き出した白濁が付いた自分の手を少し舐める久谷。俺の視線に気づいてニヤッと笑ってみせる。
「なんだ、んなによかったか?」
「っは、悪くはなかったぜ」
「へぇ…?どうする?ここでコレ使ってヤるか、仮眠室でローション使ってヤるか」
俺はどっちでもいいけど、お前は恥ずかしいんだっけとニヤつくのに腹が立つ。仕返しとばかりに、今度は俺がネクタイを引っ張ってキスを仕掛ける。驚きつつ応えてくる舌を絡めとっていく。久谷の両手が俺の顔の横に、机の上につかれた。
ゆっくり離れた二人の間を、つ、と銀糸が繋ぐ。唾液で濡れた唇を手の甲でぐいと拭い、口角をつり上げた。
「てめぇのテクじゃローション使わねぇと痛ぇんだよばーか」
「てめぇな…!」
「昼休み、あと30分もねぇぜ?その粗チン突っ込む前にしっかり解してちゃんとイかせてみやがれ」
ここ数日でこいつにこの先の快感を散々教え込まれた体は、火が点いたらもうさっきのなんかじゃ収まらないのはわかってる。こいつの性欲だって底を知らないのもわかってる。
(―――それにお前は、ここで俺が断ったら、他の奴のところへ行くんだろう?)
だから俺は、これを断るわけにはいかない。
どうせヤるんだ。だったらこんな、いつ誰が帰ってくるかわからない場所でヤるのは遠慮申し上げたい。
膝でスラックスを押し上げる。勃ち上がっているモノをごりごりと刺激すれば、ギラリ、濡れた光を瞳に灯した久谷が獰猛に笑った。
「上等じゃねぇの…天国見せてやっから覚悟しやがれ」
「はっ、できるもんならな」
そう応えた自分の声は、濡れて欲情しきったものだった。
*end*
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