季節小説 | ナノ
「祐、お前箸持ってる?」
「ん、大丈夫もらってる」
「よっしゃ間に合った、食おうぜ!」
ごとりと隣にどんぶりを置いて、いそいそとコタツに入ってきた隼人。弛んでるその顔があまりに嬉しそうで、俺の方まで頬が弛んでしまう。テレビでは年越しまであと3分だと騒いでいる。そんな世間の盛り上がりを無視して勇んで手を合わせるのに倣い、俺も手の平を合わせた。
「いただきます!」
「いただきます」
言った途端に勢いよく啜りだす姿に、ついに堪えきれずに小さく噴き出した。どんだけ腹減ってんだ、夕飯食っただろうに。さすが成長期の中学生男子とでも言うべきか、一心不乱にどんぶりに向かう隼人。くつくつと笑いの止まらない俺がさすがに気になったのか、ずずっと蕎麦を啜りつつ、なに?とこっちを横目で見てくる。それになんでもないと首を振り、俺もようやく蕎麦を啜った。おお、さすが今年も旨い。楢原の味は変わらないな。
「んーやっぱ年越し蕎麦はうちのじゃねぇとな」
「ああ、うまいな」
「食堂のもうまいんだけどなー」
「ちょっと違うよな」
物心ついたときからずっとこの蕎麦を食べ続けてきた俺にとっても、“うちの味”はこの味だった。他に年越し蕎麦なるものを食べたこともなかったしな。それっきり真剣に蕎麦を啜る隼人に倣って黙々と食す。なにも乗っけずに蕎麦だけで食うのが、またなんとも。
そうこうしている内に、気づけばカウントダウンが始まっていた。10、9と大勢の声がカウントしている様子を見ながら蕎麦を啜る。怒涛の勢いで食っていた隼人がぷはっとどんぶりから顔を上げた瞬間、テレビから割れるような歓声が沸き起こった。
「年明けたみたいだな、おめでとう隼人」
「ん、あけましておめでとう、祐」
2人で視線を合わせて静かに明ける年。隼人がふっと目を細める。
「こうしてお前と好き勝手に年明け迎えられるのも今年までかー…」
呟いて、ぼすっと後ろに倒れ込む茶色の頭。俺はまだ残っている蕎麦の処理にかかる。啜る俺の脇腹にちょっかいを出してくる鬱陶しい手を容赦なくはたき落とす。
確かに楢原の年越しに参加しなくてもいいのは中学の今年までだ。来年からは隼人は大人の仲間入り、俺はここで隼人を待つことになるんだろう。
「なんか言えよーお前さみしくねぇの?」
さみしそうに呟かれた言葉に、蕎麦を啜る音で応えてやる。それでも懲りずにぐいぐいとシャツを引っ張ってくる手。最後の一筋を吸い、じとりと拗ねたような顔を見下ろす。こいつはほんとに、俺になんて言ってほしいんだ。
「なに、さみしいって言ったら行かないでくれんの?」
「…意地悪だなお前」
「わかってたことだろ」
ふん、と鼻で笑えばごろりと伏せられる顔。くしゃりとその髪をかき混ぜれば、俺のシャツを掴む手に力がこもった。さみしいのは自分のくせに。だけどそれがわかっていても、俺は側にはいてやれない。
「ばか、俺はここでお前を待ってるから」
「………」
「大丈夫、拓がいるだろ」
「…拓ちゃんは祐じゃない」
珍しくあからさまにさみしがる姿に俺まで引き摺られそうになる。どうしたってんだ。年が明けて、急に現実味を帯びた子供でいられるリミットに感傷的にでもなってるのか。
「大丈夫だって、拓は今年からはずっと側にいる。さみしがる暇なんかねぇよ」
「…そうだ、拓ちゃん来ることになったんだっけ」
「ああ、不安なのはあいつの方だろ?支えてやらなきゃ」
「───…」
僅かな沈黙のあと、ぐるりと戻ってくる顔。数秒俺を見つめたと思ったら、ようやくいつもの調子でニヤリと笑った。
「そうだった、さみしがってる暇なんてなかったんだった」
「おお、切り替えはやいな」
「ふっふーん、俺ちょっとイイコト考えてんだよねー」
「イイコト?」
一瞬前とは一転、楽しそうに嬉しそうに笑う隼人。俺もつられて口元を弛める。本当に、俺の喜怒哀楽さえお前次第だ。
一年の計は元旦にあり。
俺はきっと一年と言わずこの先も、ずっとずっとこの調子なんだろう。隼人の一番近くで、誰よりも側で支えていきたい。去年の抱負も今年の抱負も来年の抱負も、それはずっと変わらないから。
「俺たちでD組、乗っ取っちまおうぜ」
俺がこのイイコトに乗ったかは、ご想像にお任せする。
*end*
HAPPY NEW YEAR!!
隼人と祐が中学三年生のときのお話
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