5万打御礼企画 | ナノ
緊張と不安で渦巻く空気。
しかし、ゆっくりと扉を開けて、お目当ての人物を認めた途端―――それは一瞬で薔薇色に染まる。
「会長!」
たっと駆け出した先には、本来は駆け出した本人のものである席に我が物顔で座る人物が。学園のトップという重みのある席にも関わらず、そこに座る姿は板についていた。
「おーお疲れ。今はお前が会長だろ?」
「そうでした…えーっと、先輩…?」
「んー惜しい、かな。ほらおいで」
それもそのはず。間違いを言ったかと不安そうにしている会長に笑いかけながら、ぽんぽん、と自らの膝を叩くのは前年度の生徒会長だった男。この椅子に座っていた時間は、現会長よりもずっと長いのだ。
前会長の誘いに素直に従い、自分の席だというのにそろそろと恐る恐る近づいていく。しかしそこまで緊張しているにも関わらず、膝に乗ることに対しては異論はないらしく、大人しくそこに収まった。もちろん向かい合って、である。
「疲れた顔してるな…ちょっと痩せたか?」
「そんなことないです」
「ほんとに?心配なんだよ…辛くないか?無理してない?」
「大丈夫です、無理してません。…ただ、」
「ただ?」
ぱっと俯いてしまった会長の頬を、促すようにそっと撫でてやる。すると、そろりと潤んだ瞳が持ち上がった。
「…寂しかった、です」
困ったように笑う姿に、がばりと間髪いれずに抱き締める。
なんなのこの子、可愛い可愛い可愛い…!!
「うん、うん俺もだよ」
「ちょっとせんぱ…!」
「あーそれ、惜しいけどだめ」
「え?だめ?」
ゆっくりとだが、確かに自分の背中に回ってきた腕に、ぎゅっと抱き締め返す。そしてぽそりと、名前で呼んで、と真っ赤になっている耳元に囁きを落とした。途端、既に赤かった耳と項が、更に鮮やかな朱に染まるのがわかる。
「え、や、今は無理です…!」
「なんで?」
「う、なんでって…」
体を起こした会長が、ちらりと周りに視線を走らす。
ハートが降りしきっているかのような生徒会室には現在、今の今まで空気のようではあったが、確かに役員と風紀委員長が存在していた。委員長は副会長となにか相談をしているし、他の役員はそれぞれ自分の書類を片付けていた。
確かにちょっと成り行きを聞いてはいたが、後は何も気にしないように勤めていた彼らは、会長の目が自分達に向いていることに気づいて内心呻く。向かい合って座ったりもう十分自分達の面前でいちゃついているのだから、名前呼びくらいを恥ずかしがる意味がわからない。可愛い会長を見られるのは役得だが、好きにしてて良いから、頼むからこっちを巻き込まないでいただきたい、というのが本音である。
しかし彼らが会長の友人であると分かりきっているのに、自分から意識が逸れたくらいで嫉妬するほど前会長は分別がないわけではない。寧ろその会長の行動が、彼が無意識に二人きりになりたいと言っているようでついつい顔が緩んでしまう。
「んー…もうやることは終わったんだっけ?」
「あ、はい。終わってます」
こくりと頷く生徒会長。
彼の恋人以外は、今日と明日のためにこの一週間、会長が物凄い早さで仕事をしていたことを知っている。あっさりと肯定しているだけだが、それをすることはかなり努力を要することだった。
もちろん前年度の会長だった男も、この予算会議の時期に1日丸々空けることがどれだけ大変なことなのかはわかっている。そしてこちらも受験を控えている身で、暇であるわけがない。しかしお互い会えないストレスと寂しさが限界だったのだ。せっかく無理矢理捻り出した時間を無駄にしたくはない。
「よしじゃあ帰るか」
「え…」
「違う違う、二人でお前の部屋に帰ろうってことだよ。俺が一人で帰るってことじゃないからんな顔すんな」
瞬間しゅんとした顔になった会長だったが、慰めるように優しく頭を撫でられてほんのりと頬に赤みがさす。その様子を見つめる前会長の瞳は、どこまでもやさしく、彼が愛しいと言っていた。
「帰ろう。帰ってのんびりしよう?」
そう言って柔らかく微笑う恋人に、会長はこくりと頷く。正直会った瞬間から我慢していたのだが、そんな素直な会長に我慢しきれず、風紀の長と生徒会役員が見守るなかで深く唇を合わせたのだった。
***
「…なぁ、ほんとにいいのかな?」
「い、一応許可はとったしな」
「でもさっきの声、会長じゃなくなかったか…?」
役持ちの生徒の部屋しかない最上階のひっそりとした廊下を、ほとんど縁のないはずの二人の一般生が身を寄せあって歩いていた。この階へ止まるエレベーターを使用するには、専用のカードキーかもしくはこの階の住人からの許可が必要である。許可を得るにはマンションの入り口にあるような呼び出し機を使って住人と連絡を取り、専用エレベーターのドアを開けてもらうのだが、二人に先程ドアを開けてくれた声は呼び出したはずの声とは違うものだった。しかし機械を通した声だったしおそらく聞き間違えだったということにしておこうと無理矢理納得した頃には、二人は目的の部屋まで到着していた。
恐る恐る押されるドアホン。しばらくしてがちゃりと鍵を開ける音がして、ゆっくりと重厚な扉が開く。
「おはようございますかいちょ―――…」
「おはよう。あいつへの書類なら俺が受けとるよ」
そう言って微笑む会長よりも柔和な雰囲気の男前。均整のとれた見事な肉体美を晒して現れた上半身裸の人物に、二人はぴしりと硬化した。
しかしそんな二人にはお構いなしに、その人物はほれほれと片手を伸ばす。
「ほら、書類は?」
「あ…あ、はい、えーっと、これです」
「ん、さんきゅ」
ぱらっと受け取った書類を捲って目を通すと、よしよしと頷いて顔を上げた。そしてぎしぎしと緊張しているのがありありと見てとれる二人に、これなら及第点だと告げてやる。
「あんまりあいつに負担かけないでやってくれな」
「え?あ、はい。えっとそれは、」
「あぁ、それと」
―――ここに俺がいたこと、みんなには秘密な?
そう言って目を細めて笑う。その背中には、数本の引っ掻き傷が残っていた。
数日後、会長の恋人は前会長だという秘密は、彼の狙い通り全校生徒が知ることとなる。
しかしもう一つの秘密―――冷徹な俺様会長にもう一つの面があることは、この先も秘密のままだった。
*end*
prev
|
back
|next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -