5万打御礼企画 | ナノ
「あいつは、俺からすべてを奪ったんだよ。俺が、本当は持っていなければならなかったもの、すべてを」
そう言って切なげに笑う宏紀は、とても綺麗で。
許せないと言いながら、心の底から憎いと言いながら。それでも宏紀にこんな綺麗な顔をさせるのはいったい誰なのだろうと、純粋に興味が湧いたのだ。
宏紀からすべてを奪ったという男───生徒会長、瀬戸拓巳に。
【First contact】
生徒会長って、どんなやつなの?
そう聞くと、聞く相手によって反応は千差万別だった。
イケメン、顔だけ、偉そう、見下してる。
カリスマ、自信家、俺様、厚顔不遜。
スペック高すぎ、やりたい放題、下半身男。
そしてなにより、家柄がよろしくない。
だけどみんな、最後にこう付け加えるんだ。
「でも、生徒会長は彼しかいないから」
わかるような、わからないような。
神格化して崇めたてる奴もいれば、嫉妬なのかなんなのか扱き下ろす奴もいた。だけどみんな、認めてる。どんなに酷く言う奴でも、生徒会長として瀬戸拓巳を認めていた。
けれどまあ、正直俺は、どんなに生徒会長としての瀬戸拓巳の話を聞いてもあまり良い印象は持てなかったけれど。
能力はあって顔もいいんだろう。だけど、それを鼻にかけて偉そうにしてるような、そんな勘違い野郎。どうせ結局この学園の奴らはみんな、顔さえよければなんにでも目を瞑れてしまうようなのばかりだから。きっとプラスイメージの話は全部、話半分に聞かなきゃならないだろう。
なにより会長と同じように選出された生徒会全員に敵対されている時点で、どうせ外面だけ良いだけのろくな奴じゃないのだろうと、思っていたんだ。少々変わってはいるが、あんなに良い奴らにそっぽを向かれるなんて、余程表裏があるんだろう、と。
そう、思っていたから───だからあの時、初めて言葉を交わした会長に、俺は信じられないほどのショックを受けたんだ。
***
「あー……あんたが俺のことをどう思ってようがどうでも良いっすけどね、でもこの学園が荒れてんのは俺のせいじゃない。どうなるかなんて予想できたくせに、俺やあんたがいくら言っても聞かなかったあいつらが悪いし、こんなことで一々騒ぐ親衛隊の奴らも可笑しい。それにあんたの監督責任でもある」
言葉が、止まらなかった。
俺に責任を擦りつけようとする、ご立派な生徒会長様。ああやっぱり、そういう奴だったんだと。宏紀があんな顔するから少しだけ期待していたけれど、期待なんてする価値もなかったのだと。わかっていたけど、どこか期待してしまっていた。この人を選んだという全校生徒に、全校生徒に認められているこの人に。
無駄に期待したせいで失望させられた苛立ちを、真っ直ぐに目の前の会長へと突き返してやる。
「生徒会の長はあんたでしょう、会長。
いくら俺のせいにしようとしたって、あいつらの責任者があんたであることは変わりませんよ」
冷めた目で見つめ、言葉を、現実を吐き捨てる。
これで俺があんたの見てくれに騙されるような人間じゃないのはわかっただろう。ここら辺で痛い目見といた方があんた自身のためだろう。世の中、この学園の連中みたいに外見重視のアホばかりじゃないんだよ。
もう、これ以上この生徒会長様と話すつもりはなかった。これ以上話したところで、きっとなにも得るものはない。
はっきりと敵対の意志を告げて、これでもう用はない───そう、踵を返すはずだった。
「そうだな…。はは、そりゃそうだよなぁ」
それなのに、そう言って弾かれたように笑い出した会長に、俺は思わず固まってしまって。
なんの躊躇もなく自分の非を認め、頭を下げる会長に、俺は対応すらできなくて。
「絶対俺が何とかするから。悪ぃがもうちょっとだけ我慢してくれ」
「なんでそんな…」
「ここだってちょっと特殊だが、高校には違いねぇんだ。今のお前にとっては面倒臭い場所でしかないかもしれねぇけど、本来はもっとずっと楽しい場所だから」
俺は───自分の勘違いを、悪意ある発言を、謝ることさえできなくて。
「お前もきっと気に入るよ。だからもうちょい待っててな」
そう言って、俺の頭にぽんと手を乗せる会長に───どうしようもなく、泣きそうになった。
(どうして───…)
どうしてこの人は、こんなことが言える。一人ですべてを背負って、それでも前に進もうとすることができる。あんなに攻撃した俺のことを、そこまで考える。
遠ざかろうとする背中に、俺は思わず呼びかけていた。
身を乗り出すように、その人の、瀬戸先輩の名前を呼んだ。
「先輩は、なんでそんな頑張るんすか?しかも俺のために…赤の他人ですよ?」
「あ?んなの当然だろう?」
「でも、でも俺のせいじゃないかもだけど、きっかけは俺っすよ?なんで―――…」
咄嗟に口からでたのは率直な疑問。
きっとこの会長は、あいつらが戻ってくると信じてる。あいつらの暴走の責任をとる覚悟ある。俺のことを本気で救おうとしてくれてる。
そして、自分はそれができるのだと、信じて疑わない。
わけがわからなかった。
この生徒会長は───瀬戸拓巳という人は、なぜそこまで、人を信じて期待することができるのかと。
「―――俺が、生徒会長だからだよ」
当たり前のように、迷いなく返ってきた答え。
なにも言えなかった。だって、あまりにも、バカみたいだと思ったから。この人は、生徒会長だからってなにもかもを背負い込むのか。すべての責任をとって、すべてを前に進めようとするのか。
バカみたいだと思いながら、けれど颯爽と去っていく背中はどこか眩しくて。
宏紀があの表情を浮かべた意味が、わかった気がして。
(───だって、敵いっこない)
この人に。
どこまでも人を信じて、周りを巻き込んで一緒に前に進もうとするこの人に。
敵わないとわかっていても、それでも譲れなかったんだろう。だから許せない、憎い───それなのに、会長は信じようとするから。また一緒に歩けると信じて疑わないから。
生徒会長だからなわけがなかった。
瀬戸拓巳だからこそ、なのだ。
この人がこの人だからこそ、すべてを抱えてでも前に進もうとする。俺を、宏紀たちを信じて進もうとする。
だから俺も、見てみたくなってしまったんだ。
この人が進む道を。切り開く未来を。
宏紀の気持ちがわかってしまった以上、今はあいつを一人にすることなんてできないけれど。でももしもあんたが本気で巻き込むつもりがあるっていうんなら、徹底的に巻き込まれたい。あんたが進むその先を、俺は見てみたい。
(ああ、もしかしたら俺は、)
そのすべてを───あんたの隣で見たいのかもしれない。
宏紀が諦めてしまった、その場所を。
誰もが手を伸ばし、手に入れられないその場所を。
なあ会長、気づいてた?
あんたはきっと、そんなつもり全くなかったんだと思うけど。
あの日、あんたと初めて会ったあのとき───俺はあんたの隣を目指してみたくなったんだ。
*end*
その気持ちが恋となるかは、彼ら次第。
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