5万打御礼企画 | ナノ
「ほんと、会長はタラシだな…」
「なに言ってんだ、俺はタラしてなんかねぇよ。周りが勝手に騒ぐだけだ」
「なーに言ってんだか…じゃあタラしついでに、うちの委員長タラしてきてくれよ」
そう言ってニヤリと笑った副委員長に、俺は思わず一時停止してしまった。止まった手を掴んで頭から放され、俺ははっと我に返った。
「ちょ、お前なに言ってんだよ?」
「いや、だから委員長追いかけてほしい」
「だから、なんで俺が…っ」
もしかして、俺の気持ちはバレているのか。
思わず後ずさろうとして引いた手は、しかし手首を捕まえられて動かない。さらに思った以上の力でぐっと引き寄せられて、手の平にそっと口づけられる。
「…今の彼方様には、貴方が必要だから」
「っ、なに…っ」
「部下でもセフレでもない、唯一対等である貴方が、彼方様の隣に必要なんです」
「……っ」
呟くように告げられた言葉に、ぐっと眉間にしわを寄せる。
俺に、いったいどうしろというのか。あの人というのが誰なのかとか、なにが彼方を苦しめてるのかとか。なんの会話かさえ、わからなかった。そんな俺に、いったいなにができるというのか。
(それでもーーー…)
それでも、俺が傍にいることが、ほんの少しでもあいつの助けになるならば。もしそうであるならば、なにも迷うことなんてない。あいつのために、俺が今できることをするだけだ。
するりと解放された手。もう一度、ぽんと頭に手を乗せて歩き出す。踏み出した足に、迷いなどない。
「…手にキスくらい、許してくださいね、彼方様」
俺の後ろ姿を見つめながら苦笑とともに呟かれた言葉は、俺の耳に届く前に廊下へと吸い込まれた。
***
「やっと見つけた。お前もっとわかりやすいとこいろよ」
「…智哉か。なにしにきたんだ?」
あれから風紀室やら生徒会室やら図書館やら探しまくって、ようやく辿り着いた屋上。足を投げ出して座る見慣れた頭にほっと息を吐いた。屋上なんて珍しい。だけど確かに、一人になりたいのならここは絶好の場所だろう。
声を掛けて振り返った顔が、想像してたよりも憔悴してなくて安堵する。よかった、お前にまであいつみたいな顔されたら、彼方を抱き締めずにいられる自信がなかった。
「や、なんか顔見たくなって」
「なんだそりゃ。俺の顔見にくるなんて良い趣味してんな、お前も」
「誉め言葉として受け取っておくぜ」
くつくつと喉を鳴らす彼方の真後ろまで言って腰を下ろす。隣に座ったらダメな気がして。顔が見えていたら歯止めが掛からなくなってしまう気がして。敢えて背中合わせで向き合いはしない。きっと、これが俺とお前の正しい位置だから。
背中が触れるか触れないかの距離。近いとか、一人にしてくれと断られるかと思ったが、彼方はなにも言わずに俺を受け入れた。
これは、顔には出さずに実は相当参ってるのか。
「おー、綺麗な青空だな」
「だろ?気分転換にはもってこいだ」
「ああ。眠くなりそうだが」
広がる青空は憎らしいほどに綺麗で。
お前が背負い込んだ重荷を、少しでも俺が軽くしてやれたら。ぐちゃぐちゃで雁字搦めになっているお前の心を、せめてほんの少しでも、この青空のように澄んだ色にしてやれたら。
「…なにも、聞かないんだな」
「ん?聞いてほしいのか?」
「……いや、」
聞きたいことなんて、山ほどある。だけどそれは、お前の心の安定に比べたら、ほんの些細なことだから。
聞いてほしくないのなら、あの話は聞かなかったフリをしよう。ただ、誰かに傍にいてほしいと言うのなら、誰よりも俺が傍にいるから。
俺がふっと空を仰いだ瞬間、トン、と背中に軽い重みが触れた。
「とも…悪い、ちょっと背中貸して」
「…ああ」
「さんきゅ、な」
力を抜いたのか、少し重みの増す背中。
向かい合えはしない。だけど、背中を預けることなら、できる。すぐに寝息をたてはじめる彼方の呼吸を感じて、どうしようもなく、狂おしくいとおしくて。
お前は、この背中になにを背負ってるんだ。誰のために、誰を守るために。俺がそれを分かち合うことはできないのか。できたらどうか、お前が抱えているものをほんの少しでもいい、俺に分けてほしい。そうすればきっと、俺はお前のためになんだってするから。
(だけどきっとお前は、一人で抱えたまま、なんだろうな)
ならば、俺はお前の背中を預かろう。離せないというのなら離さなくていい。お前はその荷を抱えたまま、なにも言わずに俺に凭れてやすめばいい。
そのくらいのことなら、お前だって気兼ねなくできるだろうから。
「あーあ…軽いんだよこんなん」
お前が、俺の背中でやすむことができるなら。
それならば、この関係のままでいい。
背中合わせのこの関係がーーー今はただ、どうしようもなく、いとおしかった。
*end*
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