5万打御礼企画 | ナノ
谷口が学園を辞めると発表したのは、アホ役員共に会長に推薦されたその日。
推薦されて颯爽と壇上に表れた谷口は、毬藻頭を取って推薦を辞退したのだ。自分はもうこの学園を辞めるつもりだと、そしてそもそも自分にはそんな器はないのだと、そう言って。毬藻頭の下から表れた美少年と、そして名誉な役職からのまさかの辞退。呆然とした役員と騒然とする生徒たちを置いて、谷口はあっという間に去っていった。
そのあと、転入間もないここに愛着もって立て直すなんて無理だし、それに自分はこの学園より設楽の方が心配だからと、そうけろっと暴露されたのには驚いたが。けれどまあ、入学当初から追いかけ回されて色んなことに巻き込まれまくった谷口にとって、この学園でのいい思い出など設楽との出会いくらいしかないことを思うと仕方のないことだった。
「それで?なにか用があったのか?」
『ああうん、元気にやってるかと思ってよ』
「あーまあな。なんとかかんとかやってるさ。沈みかけながらもここまで来れた。やっとだよ」
設楽も谷口もいなくなったこの学園での半年。
辛くなかったと言えば嘘になる。しんどくて、苦しくて、何度辞めてやろうと思ったことか。だけど俺には、やらなきゃならないことがあったから。
『そうか……そうだな、一日早いが―――…卒業、おめでとう』
「―――っ」
酷く静かな、祝福の言葉。
その言葉は、思っていたよりもズシリとくるものがあって。急に目頭が熱くなる。きゅう、と詰まった喉が、痛くて。
本当は、一緒に卒業するはずだった。きっと本当は、設楽こそ誰よりも祝福されて卒業しなきゃならなかったんだ。
だけど今、設楽は、ここにはいなくて。俺やあいつらだけが残ってしまっていて。
そのことが、今さら悔しくて悔しくて仕方ない。
取り落としたペンを拾いつつ、不自然に空いた間を咳をして誤魔化した。二言目には謝りそうになる口を、どうにか抑える。今、謝るべきじゃないのはわかってる。
「ああ…ありがとう。本当に…」
『めでてぇな…みんな卒業できるのか?』
「ああ。残ってるうちの代は全員卒業する」
『そうか、よかった』
ほっとしたような、嬉しそうな声。
どうして自分を追いやった奴らをそこまで思えるのか、俺には本当にわからない。自分はそこまでお人好しじゃないと笑うこいつが、ここまで自分たちのことを心配してくれていると知っている奴なんてきっといないのに。その事で俺が憤慨するのもお門違いだとはわかっているけれど。
『上手いこと、変わっていってほしいなあ』
「…変わるさ、きっと」
俺たちを、見ているのだから。きっと後輩たちは上手くやってくれる。
期待と願い。祈りをこめた言葉。設楽はそうだなと言って笑った。
『あ、奏が山田(ヤマダ)は元気かだって』
「山田…?ああ、谷口が同室だったやつか?あいつは元気だよ、苛めも止んで普通の生活に戻ってる」
『そうか…ならいいんだ』
やはり向こう側で騒いでるのがわかる。相変わらずやかましい奴だなと苦笑しながら、副委員長が申し訳なさそうに差し出してきた書類を受け取った。
ああそうか、これ処理しなきゃならねぇか。
「あー悪い、ちょっと急用が入っちまった」
『そうか。悪かったな、忙しいときに』
「いや、卒業式の前にお前と話せて良かったよ」
『そうか?邪魔した気しかしねぇがな』
くくっと笑う設楽。
俺は席からゆっくりと立ち上がり、すうっと小さく息を吸った。
「最後にひとつだけ。全校生徒を代表して言わせてくれ」
『ん?』
「この学園が変わり始めたのは、設楽元生徒会長、貴方のおかげだ」
『……』
「―――本当に、ありがとう」
そしてすまなかった、という声は、掠れて音にならなかった。
深々と頭を下げる俺の周りで、委員がみな立ち上がって頭を下げているのがわかる。みんな、変わったのだ。変われることに、変わらなきゃならないことに気づけたのだ。それは紛れもなく、設楽のおかげで。
『…馬鹿だな、お前は』
「……っ」
『俺はきっかけに過ぎない。変わろうとしたのは、お前たちの意思だろう?』
「…設楽…っ」
『こちらこそ、俺が放り出した学園をここまで支えてくれて、本当にありがとう』
「………!」
ぼろぼろと、涙が溢れた。
お前がいてくれてよかった。お前が俺たちのトップでよかった。お前が俺たちを守ってくれてよかった。
設楽の思いに応えるために、俺たちは一刻も早く、この学園に終わりを告げなければならない。そうしてこの章は終わり、学園はまた新たな一歩を踏み出していくのだ。
なんのしがらみもない、自由な、学園へ。
「ありがとうっ…!本当に、本当にすまなかった…!」
『…最後の大仕事、頑張れよ』
「ああ、任せておけ…っ」
泣きながら笑った。
大丈夫、俺はこれを遂げるために、この学園に残ったのだから。
これをするのが止められなかった俺の責任だと、そう思っているから。
設楽の言葉と、そして聞こえる谷口の声に、俺は口角を引き上げる。
――――さあ、最高の幕引きを。
*end*
設楽一樹(シタラ カズキ):会長
谷口奏(ヤグチ カナデ):王道転入生
宮下(ミヤシタ):風紀委員長
山田(ヤマダ):谷口の同室者
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