5万打御礼企画 | ナノ
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『いいか、これはお前らが選んだ結果だ。俺を選んだのはお前らで、俺を降ろしたのもお前らだ。今までのことはとやかく言わないが、これからのことには選んだお前らも責任を持て。自分自身に選んだ責任があることを自覚しろ。その責任を理解し、そうして全員で支えて全員で良くしていくんだということを忘れるな。
守ってくれ―――お前たちの、学園を。』
あの、あいつの引退の言葉から半年。
あの時、自分たちは失ってはいけない人物を失ったのだと、一番やってはいけないことをやってしまったのだと、そう気づけた人間がどれだけいたのか。
あいつがあれだけ守ろうとしていたこの学園は―――今、終わろうとしていた。
「っまだわかんねぇのか!!どうしてこの状況でそんなことが言える!?」
「そっ、それはその、慣例で…」
「だっから…!ああもういい!俺がやる!!」
出された書類をもぎ取り、出ていけと怒鳴る。逃げるように去っていくその背中を見ながら、はあーっと大きくため息を吐いた。
この光景を、この半年だけでどれだけ見たことか。ここまで来ると自業自得だが、憐れというかなんというか。
「宮下、それは俺がやっとく」
「悪いな、頼めるか」
「ん。いいからお前はちょっと寝てこい」
「バーカ。んな暇あるか、明日で最後だぞ」
設楽のリコールから半年間、辞めずに残ってこの学園を支えると宣言した俺を、最後まで見捨てずに支えてくれた副委員長。俺の言葉に少し眩しそうに目を細め、そうだなと言って笑った。
あれから、生徒会の連中が変わることはなくて。
変わったのなんて、トップくらいだ。設楽の後釜は谷口、そしてすぐに今のあいつへと変わってしまった。正確にはあいつは会長職に就いているわけではなくて、会長不在の際の代理責任者に副会長として繰り上がりで就いているだけだが。
だけど、残念ながら意識は変わらない。さすがにヤバイと気づいたのか谷口が来る前くらいには仕事はするようにはなったが、あの時とは状況が違う。それに対応して沈みかかった船をもう一度再浮上させることなんて、先導者を失ったあいつらにできるわけもなく。
設楽が死に物狂いでやってくれていた仕事のおかげで、あいつらがやるべきことは後処理だけだった。それが、せめてもの救いだった。
なんとか沈まずに済んだ俺たちの代の学園は、ようやく明日、終点の港へと到着する。
―――卒業、だ。
「あとはどれだけ厄介事を残さずにバトンタッチできるか、だな」
「ああ、俺たちが足を引っ張ることなく再出発してもらうために」
賢い人間の選択は二つに別れた。
沈みかけた船を見捨て他の船に乗り換えるか、もしくは残って支えるか。
金持ちで賢い生徒の多くがここを見捨て、他校へと移っていった。残ったのは愚かな生徒か、少数の学園に思い入れのある生徒だけ。つまり、この学園は設楽家を筆頭に寄付金の多くを失ったのだ。さらに多くの生徒の転校騒動で、評判も信頼もがた落ちだろう。
そんな中で、この学園がどうやって立ち直っていくのか。
(無責任かもしれないが、これで良かったのかもしれない、なんて)
金やら家柄やらの縛りから解き放たれて、ある意味自由になったこの学園がどうなっていくのか楽しみ、だなんて思えるのは、去る人間ゆえか。
だけどきっと、歪みに歪みきった因習の染み付いている学園にはなにかきっかけが必要だったのだ。きっと設楽だったら素晴らしい革命者になったことだろう。けれど、その可能性を潰してしまった。俺たちは革命者となりうる人物を自らの手で追いやってしまった。
それでも、そのことがまた、きっかけとなったのだ。
その犠牲になったのが俺たちの代だと―――設楽だったのだと。せめてその犠牲のおかげで良くなったと言われる学園になってほしいと。今はただ、そう願う。
「あ、電話」
「じゃあ俺は仕事してくるよ」
「ああ」
机の上でブルブルと震えた携帯を手に取る。
表示された名前はたった今考えてた人物のもので、ふっと頬を緩めながら指を滑らせた。
「よお…久しぶりだな、設楽」
『おう、元気にしてたか?』
「それはこっちの台詞だバーカ」
『俺は元気だよ。あいつが傍にいちゃろくに沈んでもいられねぇからな』
そう言う設楽の声の向こうで、あいつって俺のことかよ!?という谷口の声がした。あいつも変わってねぇなと笑いながら、くるんとペンを回した。喋りながら読んでいた書類の最後に、さらっと署名する。
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