5万打御礼企画 | ナノ
「なんでだよ!?こんなのおかしい!!!」
一時期はそれを聞いただけでも吐き気を催していた言葉。
しかし涙ながらに訴えてくるその必死な声に、俺は微かに笑って背を向けた。
【エピローグ】
舞台袖の椅子に座りながら、俺はなんとはなしに宙を見つめていた。舞台上ではかつて仲間だった面々が朗々となにかを語っているが、なに一つ頭になど入ってこない。なんの感慨もなかった。
ただ一つだけ思うのは―――終わったんだなあ、それだけ。
『会長、貴方を職務放棄や数々の暴力行為によりリコールします!』
いつか来るとは思っていた。ずっと噂も流れていた、らしい。しかしずっと自室に籠って仕事をしていた俺に直接話が来たのは、一昨日で。
一日で引き上げる準備をしろと言われたけれど、そのあと俺がやったことはもちろん仕事だった。荷物などすぐに引き上げられる状態なのはわかっていたから、そこからは書類の処理をラストスパートをかけて。出来うる限りの処理をしたから、これからしばらくは放置されてても大丈夫だろうと思う。そのあとはどうなるかわからないけれど、次の会長職に就いた生徒が書類処理に慣れるくらいの時間は作ってやれたと思う。
これで、俺の任務は終わり。心置きなく去れる、なんて。
「―――会長っ!!」
「ちょ、静かにしろ、お前ダメだって、」
「……お前ら…」
最後の数ヵ月は辛かったけれど、それでもこの学園での生活は総じて上々だったんじゃねぇかな、なんてぼんやりと考えているところに、でかい声で呼び掛けられて意識を戻す。舞台袖の裏口をバンと開けて揉み合ってたのは、すべての発端だった転入生の谷口(ヤグチ)と、俺と敵対していた風紀委員長の宮下(ミヤシタ)だった。
そういえばこの役職名で呼ばれるのもこれで最後か。これからはちゃんと名前覚えてもらわねぇと。
「…なにしてんだ、お前ら」
「会長!!会長、俺…!」
「ばっ、静かにしろ気づかれる…!」
後ろの方から、俺の罪と思われることが副会長の声で読み上げられるのが聞こえる。職務放棄、生徒への暴力行為、親衛隊との乱交による風紀乱し、苛めの助長等々。よくもまあそこまで、と逆に感心してしまうほどの根も葉もないものばかり。すべて噂を事実として述べているような、そんな内容。しかしもう後の祭り。今となっては否定も反論も意味をなさないことはわかってる。
そろそろ呼ばれるだろうと思い立ち上がると、谷口が悲痛な声を出した。
「ごめん!!ごめん!!!俺あいつらを止められなくて、ほんと役たたずで…!」
「谷口…」
「っ、俺も、気づくのが遅すぎた…っ本当にすまなかった…!」
「………」
涙ながらに謝ってくる谷口。そんな谷口が暴走しないように押さえ込みながら、ぎりっと奥歯を噛み締めて悔しそうにする宮下。
嬉しいねぇ。そんな風に思ってくれる奴が一人でもいれば俺はそれでいいよ、なんて。そんな風に思えるほど俺はお人好しじゃないけれど。
俺が口を開こうとしたその時、会場全体に俺の名を呼ぶ声が響いた。
『ここにある、生徒の3分の2以上の署名をもって、第86期生徒会会長、設楽一樹(シタラ カズキ)のリコール並びに強制退学を成立するものとします!!!』
ついに、来たか。
ふらりと振り返ると、俺を待ち受けて挑むようにこちらを見る生徒会の奴ら。その余りに挑戦的な表情に、俺は思わず笑いそうになった。
なんだよ、それ成立したんだろ?だったら俺はもう、お前らが歯牙にもかけない一般生徒と同じじゃねぇか。いや、もう学園の生徒でもないからお前らにとってはゴミかなんかと同じか。そんな怖がる必要もないと思うのにな。
「ちょっ、ダメだ!行くな!!待てよ一樹!!」
「だからお前、名前で呼ぶなってあれほど―――…」
相変わらず聞き分けの悪い、と苦笑しながら振り向いた瞬間、ドンと衝撃。毬藻頭にぎゅうっと目一杯抱き締められて、思わず目尻が緩んだ。
「行く必要ない!だって、だって一樹は…!!」
「離してくれよ…呼ばれてる」
「なんでだよ!?こんなのおかしい!!!」
がばっと上がった顔は、今度こそ本当にぼろぼろと涙を溢していて。おかしいと言いながら、行くなと言いながら、それでも行かなきゃならないのは、リコールが決定事項なのはこいつだってわかってる。
不思議だな。お前のその言葉は、お前が転入してきた当初は聞いただけでも吐き気を催すほど嫌いだったのに。お前の本質がわかっている今は、学園から去ることにおいて唯一後ろ髪を引かれるものだなんて。
俺は、思わず笑みを溢した。
「ごめんな、あいつらから守ってやれなくて」
「違っ!それは俺の台詞で…!」
「ありがとう。ここまで踏ん張れたのはお前が支えてくれたおかげだよ―――奏(カナデ)」
「あ、えっ、名前…っ」
くしゃり、真っ黒な髪を撫でて、その腕の中からするりと抜け出た。慌てて追い掛けてこようとする谷口を、宮下がバンと床に押さえ込んだのが横目に見えて苦笑する。
袖から出た途端、パアッとライトが当たり、幾対もの視線に曝される。
そのすべてが、敵意をもつもので。憎しみと嫌悪の目に曝されながら、向かうは壇上。
(―――さあ、最後のお説教をしてやろうか)
マイクを前に、俺は腹に力を込めて大きく息を吸った―――…
prev|
back
|
next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -