5万打御礼企画 | ナノ
「やっぱいろんな考え方があるのな」
そう言って笑った拓ちゃんは、とても嬉しそうで。
彼が俺たちの他に居場所を見つけたことを再確認して安堵すると共に俺は、どうしようもない嫉妬のような気持ちに駈られた。
【If I want you to kill me 〜Y×H〜】
ごろりと寝返りを一つ。至近距離に迫った、相変わらずバカみたいに綺麗な顔に口元が緩む。いつもは性格と同じように鋭い美形だけど、こうやって目を閉じてしまえばただの美人で。気にしているようだから言わないけれど、やっぱり祐はどっちかと言うと女顔だよなあと改めて実感する。それが触れたら切れそうなほどの眼光と殺気を纏えば、またびっくりするくらい綺麗なのだ。
「ん…どうした、眠れないのか?」
「あ、わりぃ、起こした」
綺麗な顔を堪能しながらハニーブロンドを弄んでると、ふるりと長い睫毛を震わして表れた色素の薄い瞳。こんなに切れ長の男前な目なのに、睫毛が長くて美形だなんて、本当にずるい。
「…はやと?」
寝起きの悪い低血圧な祐に、舌足らずに名前を呼ばれる。本当に幼い頃から経験してるから今はもうだいぶ慣れたけど、きっと完全に慣れることなんてないんだろう。
ああ、もう。
「ずるい。ほんとにずるい。なんなんだよ」
「ん?」
「あーくっそ…拓ちゃんを奪った峰岸の野郎が憎い」
「またそれか」
とりあえず眠れなかった最初の理由を訴える。まあ後半は祐の美形さについて考えてたら寝るタイミングを失ってただけなんだけど。
呆れたように笑いながら、それでもちゃんと、今度はなに言われたんだ?と続きを促してくれる祐。ぽんと撫でてくれる大きな手に、甘えるように擦り寄ってみる。
「殺してくれって頼んだらどうするかって話をしてたんだって」
「へえ、それはまた…それで?」
「絶対殺してやらないって言われたんだと。手放すかよって。拓ちゃんすげぇ嬉しそうだったー…」
そう言ってがっくりと項垂れると、笑いながら抱き締めてくれる。憎い、憎すぎる。正直今の今まですっかり忘れていたのに、またふつふつと怒りが沸いてきた。
拓ちゃんにあんな顔させられるのは俺たちだけだったのに。拓ちゃんの居場所は俺たちだけだったのに。
確かにいつかは俺たち以外の場所を見つけてほしいとは思っていたけれど、あまりにも急すぎるだろう。無防備にあんな嬉しそうな顔させやがって。なんなんだ、何様のつもりだ峰岸暁斗。
「いいじゃねぇか。拓が幸せなら、それで」
「…祐はなんとも思わないのかよ」
「いいや?腸煮えくり返ってるしくそ寂しい」
「だろ!」
「でも言っただろ。拓が幸せならそれでいい」
そう言われてお前もだろ?と柔らかく聞かれてしまえば、否と言えるわけもなく。
そりゃあもちろんそうなのだけど。頭でそうだとわかっていても、そう簡単に納得できない。拓ちゃんが離れていくのは、どうしようもなく、寂しいから。
「くっそー…じゃあ、祐はどうすんだよ」
「ん?」
「俺が殺してくれって頼んだら、俺のダーリンはどうしてくれるわけ?」
この凹みまくった状態を、せめて浮上させてくれ。
そんな期待を込めて見つめれば、祐は困ったように苦笑して。俺の腰に手を回しつつ、面白そうに質問を返された。
「そうだな…俺はどうすると思う?どうしてほしい?」
「んー…」
愉快そうに細められる瞳。質問に質問で返すなと思いつつ、俺の頭は自然と思考を巡らし始める。
もしも俺がこいつに殺せと頼んだら、そしたらこいつは―――…
「殺すだろうなあ、俺を」
自然と口から出た答え。だってこれ以外に、候補さえなにも浮かばなかった。どんな状況であっても、俺が懇願すれば祐は殺してくれるだろうから。
一瞬で俺が導きだした答えを聞いて、祐はふわりと優しく笑んだ。よくできましたと言うようにきゅっと抱き締める力が増す。
「そうだな。お前がそれを願ったなら、俺はお前を殺すだろうな」
「………」
「だけどきっと―――お前を殺して、俺も死ぬよ」
お前がいない世界に用はないから。
そう言われ、思わず笑いそうになった。なんだそれ。なんなんだよそれ。拓ちゃんはああ言っていたけれど。
―――でも結局俺たちは、行き着く答えは同じってことか。
抱き締められたまま自分の体ごと転がすようにガバリと押し倒す。祐の腹に跨がり、両手をぎゅっと絞めるようにその首へと回した。
「俺も、お前を殺して、俺も死んでやる」
「…はや、」
「でも、お前を殺していいのは俺だけだ」
「はっ、それは光栄だ」
そう言いつつ自然とつり上がる口角。ゆるりと目を細めながら、少しずつ少しずつ力を込めて絞めていく。
確実に気道が絞まっているはずなのに、しかし祐が抵抗する様子は欠片もない。少し苦しそうにしながらも、成されるがまま。今俺が本気で殺そうとしたとしても、きっと同じ様にまったく抵抗しないだろうし、本当に殺されたところで本望だと言い切るんだろう。
「…っは、やと…?」
しばらくそのまま色素の薄い瞳と見つめあう。
静かに見上げてくるその瞳に、あることに気づいてしまって。なんだかバカらしくなって、絞めていた首を解放して再びベッドへと転がった。そうしてふはっと息を吐く。
ああくそ。お前が考えていることがわかってしまう自分が、本当に嫌だ。
「ま、俺たちはそんなことにはならないけどな」
「…ああ、そうだな」
「ん…だって俺たちには」
「―――拓が、いるから」
そう、拓ちゃんがいる限り、死ぬわけにはいかないから。自分だけ逃げることなんてできないから。
拓ちゃんに最愛の人ができたとしても、俺たちからの拓ちゃんへの想いは変わらない。きっと、拓ちゃんからの想いも変わらないんだと思っている。
だからたとえ殺してほしいと願うほどの状況になったとしても、そんな時に拓ちゃんを置いていくなんてあり得ない。絶対にあり得ないことだから。
(…―――ああ、だけど)
ついさっき、気づいてしまった。
もしそんな状況になったとしても、祐は俺にだけは絶対に頼まないだろう。自分の手ですべて片付けてしまうだろう。そう、それはきっと、自分の命でさえ。
俺の荷にならないようになんて言って、最後の最後で俺に委ねてはくれないんだろう。
「隼人…もう寝るのか?」
「ん、寝る」
「そうか…おやすみ」
だけど、そんなこと許さない。
そんなことをする前に、取っ捕まえて殺してやる。お前に手を掛けていいのは世界で唯一、俺だけだから。お前を俺に無断で殺すのは、たとえ祐でさえも許さない。
(これだけは、拓ちゃんにも譲れないなあ)
そう思う自分自身に驚きつつ、俺は眠気に逆らうことなく目を閉じる。そっと包み込んでくる体温を感じつつ、俺はゆっくりと眠りへ落ちていった。
*end*
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