5万打御礼企画 | ナノ
「あの案は無理だろさすがに」
「あ?なら却下すりゃいいじゃねェか」
「そ、りゃそうだが」
「なんだ?はっきりしねぇなァ」
いぶかしみつつ、しかし愉快そうに眉を上げるキツい顔した偉そうな男。そのお綺麗な顔に拳を叩き込んでやりたくなったのは、本日これで五回目だった。
【大丈夫、まだ分はある。】
大勢の生徒で賑わう学生食堂。
その端の柱の影になっているテーブルに座るのは、我が学園のトップである生徒会長様と、風紀の長と副、そして生徒会長親衛隊の隊長である私の四人。
ご自分のお身体を蔑ろにしがちな拓巳様に食事をしていただくために、しばしば食堂へとお誘いするようにしているから、拓巳様は役員席ではなく一般席にお座りになることが多くなった。そしてなぜか金魚の糞のようについてくる風紀の二人も。
「あ、蓮、それ食わねぇの?」
「食べたいんですか?」
「…ちょっと」
それ、と拓巳様が指さされたのは私のお盆にまだ残っていた茶碗蒸しで。そういえば今日は洋食と和食で散々迷われて、結局洋食のプレートになさったのだっけ。人の物が食べたいなど普段なら決して仰らない拓巳様の遠回しのおねだりに、和食に惹かれた要因はこの素朴なものだったのか、と思わず尋ね返しながら笑みが溢れる。
だから、もちろん構いませんよ、と茶碗蒸しを持って渡そうとした、のに。
「じゃあ俺の食えよ」
「ちょっと!」
「は?お前には言ってねぇし」
「食いてぇんだろ?茶碗蒸し、ほれ」
「だからお前じゃねぇって」
このアホな委員長様は、また。
思わず再び手に力が入る。しかし自分のがまだ残っているからと渡そうとする風紀委員長に、拓巳様は心底嫌そうな顔をして押し返していて。苛々としていた自分が少しホッとするのがわかって、なんだかおかしくなった。
この自分と正反対な男相手には、どうにも敵対心ばかりが前に出てきてしまっていけない。柄にもなく私から噛み付いてしまうなんて―――それはきっと、この男が唯一、拓巳様と同等だからだ。
きっとそう認めてしまっているからこそ、こんなにも威嚇してしまう。
(拓巳様が奪われる、だなんて)
そもそも自分のものでもないくせに、なにをおこがましい。そうは思うものの、この感覚には、ひどく焦る。
「拓巳様、私のでよろしければどうぞ」
「おーありがとう」
「おいまててめぇら無視かァ?つーかなんでそいつのは」
「フラれたんやから潔く諦めぇや暁斗」
自分が渡せばすんなり受け取ってくださるのには、自惚れてもいいんですか。嬉しそうに笑う貴方はまだ、その男より私に気を許してると思っていいですか。
今までは、良かったのだ。本当に気があってなかったようだし、会えばあちらが喧嘩を吹っ掛けてくれるのだから、仲が良くなるわけがなかった。
書類だって副委員長が主にやりとりをしていたのだ。さっきの仕事の話だって、生徒会の決定を風紀に伝えて意見が違えば話し合うだけだった、のに。
―――風向きが変わったのは、あの転入生のせいだ。
いつかは委員長も行動を起こすのだろうとは思っていたけれど、まさかこんな急激に近づくなんて。私と拓巳様の距離は変わっていない。けれど接近した委員長と拓巳様の距離に感じるのは、紛れもない焦燥感。
「…おい、そんなに見られると穴が開く」
「あぁ、すみません。食欲が戻られたようで嬉しくて」
「あ?んーそうだな、やっと元に戻ってきた。お前よりは重くなっただろ」
そう言って口角を上げる拓巳様に思わず苦笑する。いつだったか言った言葉は大分ショックを与えていたらしい。まだ根に持っていたなんて。
はい、と手を差し出せばなんの躊躇もなく重ねられる綺麗な手。いつも通りゆるゆると触りつつ感触を確かめる。確かに骨と皮だけじゃなくなったけれど、しかしそれでもまだまだ細い。
もうちょっとだなぁと眉を寄せていると、横から伸びてきた腕が無遠慮に拓巳様の腕を触った。あぁもう、副委員長とじゃれていればいいものを。
「まだ細いんじゃねェ?」
「は?ちょ、触んな」
「いいじゃねぇか減るもんじゃねぇしよ」
「減ります、拓巳様が嫌がってますよ」
「じゃあまずてめぇが離したらどうだ」
「蓮は特別だ。手ぇ離せ」
「自分ら本気で仲えぇね」
余程嫌なのか、委員長から逃れるために私からも手が離れていってしまう。副委員長がやれやれと見守る中であからさまに委員長から距離をとろうとする拓巳様を眺めつつ、離れた手が少し残念と息を吐く。
拓巳様は、身内にはどこまでも優しい方だ。
その内側に入れるか否かで、彼の対応はまったく違ってくるし、きっと彼への印象もまったく異なる。あんな風に心から嫌がれると地味にダメージ重いだろうなぁ、なんて。距離の目測を違えた彼に、想像してちょっと同情したくなるくらいには。
他人以上身内未満。
大丈夫、今はまだこちらに分がある。
「あ、うわー…信じたくない」
そこまで考えて、思わず小さく呻いた。
こんなことを考えて安心しようとするくらいには、やばいってことなのか。なにを選択するか、そして選択しないのかは、もちろん拓巳様次第なのだけれど。
(そろそろ、名乗りを上げてもいいですか)
出遅れるわけにはいかない。
いつまでも、ただの“癒し”ではいるわけにはいかないのだから。
ちゃんと攻めていかなきゃいけないなぁと、委員長と攻防戦を繰り広げる拓巳様を見ながら、そんなことを思った。
*end*
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