5万打御礼企画 | ナノ
金髪さんと話をした次の日。今日は水曜なのでいつも通り会長の自主練を見学させてもらっている。ちなみにあれからぐるぐると色々なことを考えて、結局結論が出ないまま今に至ってます。
(うっわすげ…)
考え事があったとしても、やっぱり目は会長に釘付け。
会長が今練習しているのは、今度ある恩師の公演の小作品集の中の一つ。普通はこういう依頼も大抵断る会長だけど、今回は恩師の頼みとあって、ゲスト出演を承諾したらしい。
『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥ。本来、全幕でやる場合はヒロインであるメドーラと、ヒーローで海賊の首領であるコンラッド、そしてコンラッドの奴隷であるアリの三人で踊るものらしい。でも名場面の切り取りである小作品集とかではメドーラとアリの二人で踊られることが多い、と。物語的にはよくわからなくなってしまうけれど、見せ場ありきの作品集ではなぜだかそういうものらしい。もともと力業のリフトなどは奴隷のアリの方が多いから、コンラッドはめんどくさいんじゃなかろうか…なんて勝手に考えてみる。なんて、俺もバレエに詳しくなったものだなぁ。
いやしかし。
これは、凄い。音楽と共に舞い踊る力強さは、見ていて鳥肌がたつほどで。一瞬一瞬を全力で踊る姿は、怖いほどに綺麗で。
そして支配者であり王様である会長が、跪き、頭を垂れるその姿は―――どこか倒錯的で、酷く美しかった。
(もしも―――俺のせい、だったら)
万に一つもないと思う。だけど、もしも万が一本当に、俺のせいで会長がここに留まっているのだとしたら。こんな踊りを踊れる人を縛っているのは申し訳ない、勿体ないと思う。思ってしまう。
傍にいたい。けれど、好きに踊っていてほしい。
この人から自由を奪っているのは本当は俺かもしれないなんて、信じたくない。
「どうした八代、考え事か?」
「っかいちょ、」
「おいなんて顔してんだお前…大丈夫か?」
らしくもなく考えに耽っていた俺を、会長が見逃すはずなんてなくて。さっきまで踊っていたのに、気づけば会長は俺の前に立っていた。踊りを中断する…というか踊ってる最中に他のことに気を散らすことはないだろうけれど、今の今まで上の空だったことがバレバレで、申し訳ない気持ちになってしまう。音が止まったことも気づかないなんて馬鹿じゃないか俺。
だけど、今がチャンスかもしれない。
「あの…会長、聞いてもいいですか?」
「…どうした」
ぐだぐだ悩むのは性にあわない。もし俺のためだと言われてもどうすればいいかなんてさっぱりわからないけれど、聞かないことには始まらないんだから。
「会長は、前までプロになるつもりだったと聞きました」
「……」
「それなのに、その夢を諦めてここにいるのは…俺のせい、ですか?」
自惚れるな、と言われるかもしれない。
いや、言われるはずなんだ。言われなきゃおかしいはずなんだ。
だけど、あの人が俺をからかってあんなことを言ったとは、どうしても思えなくて。
後ろめたいわけじゃない。だけど、会長の目をまともに見られない。自然に視線が下の方をさ迷っていると、存外柔らかい声が降ってきた。
「―――馬鹿だな、そんなことで悩んでいたのか」
ぎゅっと拳を握りしめて視線を下げていた俺の頭に、ぽん、と柔らかく手が乗せられる。思わずぱっと顔をあげれば、会長は困ったような顔で笑っていた。
「目的と手段を見誤るなよ。俺がプロになりたかったのは、ただただ踊りたいという目的を達成するための手段だったからだ」
「……」
「だけど、今は違う。ただ踊りたい、自分の好きなことをしていたいと本気で願っていたあの頃とは違う。
―――なぁ、俺は、自分のためじゃなくてお前のために踊りたいんだよ。そうすることで、少しでもお前の心に俺を刻み込むことができるなら」
トン、と人差し指で左胸の上を叩かれる。
目を細めて笑う姿に、きゅう、と胸が痛くなった。
「お前のために踊るという目的を叶えるためには、お前の傍にいるって手段が必要だろう?」
「かいちょ、」
「お前はもっと自惚れていいんだよ、八代」
そう言って笑った会長は、真っ赤になった俺を見て、もう一度笑った。
でもだって、仕方ないだろう?そんな言い方、狡い。嬉しすぎて泣きそうになる。
「あーもう…会長は、狡い」
「あー?」
「好きですよ。貴方のことが、どうしようもなく」
「はっ、知ってるさ!」
そう言って笑う会長が、愛しくて、愛しくて、愛しくて。
言葉にならない想いを伝えたくて、ぎゅっとその身体を抱き締めた。
*end*
Le Corsaire:『海賊』の原題
庶務:八代慶太(ヤシロ ケイタ)
会長:渡来翔(ワタライ ショウ)
会長専属運転手:小松(コマツ)
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