short | ナノ
「あんたのものに、なってやってもいい」
「……っ」
「―――ただし、抱かれるのはあんたの方だ」
なあ、そう言ったのは、お前だろう。
【溺れるのは、】
「それじゃあ会長、お疲れさまでした」
「ん、お疲れ」
「ね、いつものやってかいちょー」
「―――おやすみ、しっかり休めよ」
ふっと笑んで、ご要望通りに意識して声を発する。途端に顔を赤らめて切なそうな表情になる副会長に、ふわああと声を出しながら崩れる会計。その姿にくつくつと喉を鳴らしながらひらりと手を振ってやる。
「ほら、ふざけてないで気をつけて帰れよ」
「ふざけてなんかないよかいちょー…腰立たないぃ…」
「ちょっ、行きますよ、しっかりしてください」
「あはっ、ふくかいちょーも顔真っ赤だーかーわいい」
「うるさいですよ!…ではまた明日。お二人ともあまり遅くならないようにしてくださいね」
「…お疲れ」
わいわいと騒ぎながら出ていく二人の後ろ姿を見つめる。まったく、毎日言ってるってのによくも飽きないもんだ。あの二人は揃いも揃って俺の声が好きすぎる。毎日一緒にいれば慣れるもんかと思いきや、そういうもんでもないらしい。会計ならわかるが、あの副にまで中毒性があるんですよ、と切実そうに言われたときは驚いた。
賑やかな二人が帰り、一気に静かになった生徒会室。書類を捲る音とペンを滑らす音しかしない空間には今、俺と書記の二人しか残っていなかった。ぎしりと椅子の背に凭れ、書類を見るふりをしながら書記の方を盗み見る。
あの食堂の一件から、一週間。
まさかこれから、こいつの猛攻によって貞操の危機に陥るのか―――と、思いきや、こいつからのモーションは、あの時からなにもない。あんなギラついた目をしていたくせに、あのあと生徒会室に戻った途端にすぐに元通り。あんな発言をしてあんなキスをかましてくれたとは思えないほどにいつも通りで。からかわれていたのかと思うくらいにはいつもの何にも動揺しない寡黙な書記のまま、もう一週間が経ってしまった。
どういうつもりだ。もう怖じ気づいたとでも言うのか。なにもなかったような顔をして素知らぬふりして過ごすのは、そりゃこいつはいいだろう。しかし俺の方はそうはいかない。
(あれから俺が、どんな目で見られるようになったか)
公衆の面前であんな声を出してしまって、そりゃあもう学園中大騒ぎだ。もちろんあれからも俺の人気は健在だが、最近は余計なものまでくっついてきている。違う方面からの人気も出てしまったというか。あれからというもの、それまでは感じなかった粘っこい視線というか、雄の眼差しを感じるようになってしまった。
この俺が。この俺がだぞ?
誰もをこの圧倒的な存在の前に魅了し、平伏させてきた。そんな俺が、まさか雌として、性的欲求の捌け口として見られるようになるなんて。
(―――全部、てめぇのせいなんだよ)
何事もなかったような、すました顔しやがって。あんだけのことをやらかしておきながら、自分は関係ないとでもいうような顔しやがって。今度こそ許さねぇ。この俺が、このままやられっ放しなわけにいくかよ。
今度こそ、お前を虜にしてやるよ。
椅子から立ち上がり、静かに書記へと近づいていく。俺の動きに気づいているはずなのになんの反応もない男。このむっつり野郎と思いつつ読んでいる書類に影を落とせば、さすがにその精悍な顔がゆるりと上がった。
「……会長」
「よお、仕事はどうだ、捗ってるか?」
おもむろに机へと腰掛ける。俺から近づいてきたのが予想外なのか、数回瞬く切れ長の目に頬が緩んだ。くいっと人指し指で書記の顎を上げながらうっそりと目を細める。僅かに首を傾げて尋ねれば、凛々しい眉がぎゅっと寄った。
「…あんたが来なければ、もっと捗るが」
「はっ、相変わらずつれねぇなあ」
「あんたこそ、なんで」
不可解だというように歪められる端整な顔にぞくぞくと高ぶる。
堪らない。この清廉潔白そうな顔が俺のせいで歪むなんて。興奮で、欲望で、みっともなく濡れるなんて。
俺だけを見て、俺だけを求めればいい。俺に溺れれば、いい。
「そっちこそ、あんな情熱的に迫っときながらすっかり大人しいじゃねぇか、あ?」
「それは…ああすれば、あんたはもう、」
「俺がビビってもうてめぇに迫らないとでも思ったか?」
浅はかだな、と鼻で笑ってやる。
バカじゃねぇのか、そんな簡単に引き下がってやるわけがねぇだろう。この涼やかな瞳が確かに欲望に濡れていたのを俺は知っている。お前が素知らぬ顔して俺をどういう目で見ていたのか、この一週間他のやつらの視線に晒されてわかってしまった。だからそうとわかっていて、そう簡単にこんな上物を諦めるわけにはいかねぇよ。
「残念だったな、俺はてめぇを諦める気なんざねぇんだよ」
「…会長、それは」
「もう一度だけ言うぞ。…そろそろ、俺のものになれ」
「っ、だから俺は…っ」
つ、と首筋をなぞりながら婀娜っぽく笑ってやる。辿り着いたネクタイを、くんっと下へ引っ張った。
「なあ―――いい加減俺を抱けよ、書記」
「な…っ」
驚愕に見開かれる瞳に写るのは、ニヤリと捲れ上がる艶やかな唇。
そう、それだ。動揺し、興奮し、欲情して、その顔が崩れるところが見たい。バカみたいに興奮しながら、俺を求めるお前が欲しい。ガッとネクタイを引っ張って、本能のままにその唇に噛みついた。
「ん…っ、」
重なった唇から侵入させた舌。戸惑う舌を捕まえてねっとりと絡ませる。しかし余裕があったのはそこまでで、すぐに向こうから絡んでくるそれに責めたてられる。逃げられないように頭を押さえられ、ぞり、と舌先で愛撫されてぞわりと肩が震えた。ネクタイを引っ張る手にぎゅっと力が入る。鼻から甘い声が抜けた。
「んふっ、は、ん…んァ…っ」
「ん、」
離れた唇同士を銀糸が繋ぐ。至近距離でこちらを見つめる、奥底に欲望の焔をちらつかせる瞳に満足して頬が緩んだ。
「はっ……悪い、声だな」
熱い瞳で見つめられ、込み上げる興奮を抑えつけるように静かに吐き出された言葉。
僅かに掠れた声は、俺を興奮させるには十分で。
「―――啼いてやるよ、お前だけに」
べろりと舐め上げた唇。
言い終わるか否かの瞬間に、ぶつかるように塞がれた。
***
「ひあ、あっ……んんーーーっ!」
「はあっ、かいちょ…」
「んん"っ、は、はあああっ!」
ぐずぐずになったナカを掻き回されて、鋭利すぎる快感にびくんと大袈裟に背中が反り返る。絡み合った手を握り締めながら思いきり突き出した胸。乳首を唐突に甘噛みされてあられもない声が出る。甘く掠れた艶やかな声。堪らない快感に、シーツへと頭を擦り付けながら歯を食い縛った。
「…良さそう、だな…っ」
「ん"っ、はっ…いいっ…いいからもっと…っ」
「はあっ、そう、煽らないでくれっ」
荒く熱い息。耐えるように険しくなる顔。しかし正直にずんっと大きくモノに堪らず後ろを締め付ける。思わず乾いた唇を舐め上げた。
「ははっ、たまんね、だろ…っ!」
吊り上がった口角。途端に端整な顔が苦しげに歪み、律動が乱暴になった。
「ん"っ、あ、そこ、いあっ、んあああ…っ!」
「くそっ…!あんたは、毒だな……っ」
「やっ、そこ、あっ、んん"んんっ」
ずりずりと出入りするモノに余すところなく刺激される。体に挟まれた俺のモノが割れた固い腹筋に擦れて、前後からの鋭すぎる刺激におかしくなりそうで。びくびくっと痙攣する体。白む視界。食い縛った歯の間からトロリと溢れた唾液を、書記の口がぢゅっと吸い上げた。
「はあっ…んっ、もっと、もっと侵されりゃいい…っ」
「ったく、質が悪い…!」
「はっ、光栄だ…っ、んん"っ」
清廉潔白、ストイックな武士のようだと言われる男が、今は頭の天辺から爪先まで欲に濡れて、獣のように腰を振る。俺だけを求めて、俺だけにがっつく。堪らない。こんなに興奮することはない。
ぞくぞくと身を震わせる俺は今、そうとう酷い顔をしているに違いない。
「…はあっ、そんなこと言っていると勘違いするぞ…っ」
「は?ん、なにを…っ」
「あんた、俺のことす―――…っ」
こんな時だけよく動く口を噛みつくように奪った。首に腕を絡ませて引き寄せる。仕掛けたのはこちらなのに、しかしすぐに舌が侵入してきて絡め取られた。おまけに律動まで早くなってなにも考えられなくなる。上からも下からも甘く深い快感が全身を駆け巡り、脳髄を溶かしにかかる。
「は、はあっ、んあ…っ」
「んん…っは、」
霞む思考は、けれど快感に震える目の前のキツそうな顔にさらに欲情していくのだけはわかる。夢中になってキスをして、本能に任せたセックスをして。俺の存在がこいつをこんなにしてるのだと思うと、もうそれだけでイキそうなほど。
散々口内を蹂躙し、離れていく唇。荒い息で汗を滲ませ、ぐずぐずになった俺を見下ろすキツそうな真剣な顔。
ああ、またお前は、そうやって理性なんかを保とうとするのか。自制なんてもんをしようとするのか。
そうしてお前は、俺に溺れないように必死なのか。
ああ―――ああ、堪らない。
「はあっ、あんた、やっぱり俺のこと好きだろう…っ」
「っはは、バッカじゃねー、のっ!」
「くっ、絞めるな…!」
それでも動こうとしないのを挑発するように腰を揺らめかす。耐えるように歪む顔。首へと絡めていた腕で、再びガッと引き寄せる。感じる熱い息に口角を吊り上げた。
「―――てめぇはもう、俺のもんだろ」
ニヤリと捲り上げた唇から吐き出した言葉。
途端にいつだったかのように獰猛に笑った書記の、その、俺しか見えていないぎらぎらと欲情しきった瞳に、ぞくりと体を震わせる。
そう、これが、これが欲しかったのだ。
さあ、堕ちてこい―――俺だけがお前に溺れてるなんて、そんなの許さねぇよ。
*end*
prev|
back
|next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -