三周年記念企画小説 | ナノ
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ナオの衝撃的な告白を盗み聞きしてしまってから、数日。あのあと副会長のおかげでサッカー部の部室からも無事に出られて、なんとか騒ぎにもならずに事なきを得た。
と、思いきや。
今この学園には、まことしやかに囁かれている、とんでもない噂があった。
曰く──会長様が制裁にあったらしい、と。
【生徒会室を占拠して】
根も葉もない、事実無根の噂だった。
曰くの会長本人である俺がそう言うのだから間違いない。なぜそんなことになっているのか、皆目見当もつかないほど。
(……いや、嘘か)
広まってしまった噂が身に覚えのないものなのは確か。しかし広まってしまった原因には心当たりがあった。
それは、きっとおそらく、あの日、副会長が口走った言葉が原因で。
『あー…うん、まあ、色々とあって閉じこめられた、みたいな?』
『はっ!? えっあなた、制裁にでも…!?』
『いやいや、ちげぇよ』
いったいどうして、役員しかいない生徒会室でのあの発言が一般生にまで伝わったのかしらないが、可能性としてはそこしかなかった。役員が言い触らすとはもえないけれど、しかしあれ以外には思いつかない。親衛隊に盗聴器でも仕掛けられているのかと恐ろしくなってしまう。
それはともかく。
今までだって色々な噂は立てられてきた。だから別に、今回だって同じだと思っていたのだ。
ミーハーな学生たちは、トップ集団である生徒会のゴシップに沸き、騒ぎ、しかしいつも通りすぐに他のことへ関心を移し、収束する、と。すぐにコンタクトをとってきた俺の親衛隊にも事実無根だと伝えてあるし。
ついでに彼らに頼んで盗聴器がないかも調べてもらったのだけど、幸か不幸か見つからなかった。だからそれだけが少し不安だったけれど。
「あっ会長様!」
「わああ、今日も素敵……!」
「あ、あれどうなんだろうね、あの噂」
「でもあれ、僕の会長様親衛隊の友達が──」
廊下を歩けば好奇と心配の眼差しを向けられ、歓声に混ざってひそひそと交わされる噂話。だけど噂が飛び交うことで、こうして親衛隊からの真実が少しずつでも広がっていけばいい。
俺の親衛隊を友人に持つという一般生に、感謝を込めてついゆるりと笑顔を向けてしまう。するとそれに響き渡った悲鳴。叫んでいるのは周りだけで、笑顔を向けた本人はもはや号泣し始めてしまっていた。きっと、来週の親衛隊とのランチには彼の顔もあることだろう。
収束を見せない阿鼻叫喚。あちゃあ、と思いながら心の中だけでお礼を告げて、俺はそそくさとその場を離れたのだった。
***
足早に戻ってきた生徒会室。
少し帰ってくるのが遅くなってしまったから、なんだか最近過保護になっている役員たちに怒られるかもしれないと思いながら扉を開く。
あいつらは事実を知ってるはずなのに、いったいなんなんだ。そんなに信用ないかな……と中へ向けた視線の先。そこにいた予想外の人物に、俺はぱちりと瞬いた。
「えっナオ?」
「おかえり。遅かったな」
「た、だいま?」
開口一番どこか不機嫌さを醸し出している親友を不思議に思いながら、室内を見渡す。いるべきはずの人間が一人もいないそこに、結局視線はナオへと戻った。
あの告白を聞いてから、ナオに好きな人がいるって知ってから初めて二人きりだな、と頭を過ぎる。
「みんなは?」
「今日はもう帰ってもらった」
「え、なんで」
「二人にしてほしいって言ってある」
「は?」
当然だとでもいうように、俺の質問に淡々と答えるナオ。しかし対する俺には、この状況に困惑しかなかった。
まだ仕事あっただろとか、なんでそんな簡単に帰ったんだとか、言いたいことは山ほどあったけれど、なにが一番理解できないって、ナオの言う、理由が。
何か言いたいことでもあるのだろうか。しかし生徒会室を占拠してまで言いたいことなんて、いったい。
「えーっと、なんか話がある、とか?」
「ハル」
「……な、なに」
真剣な目をして名前を呼ばれ、その気迫に思わず一歩後退する。だからといって気圧されてると悟られるのは癪だから、後退ではなくいっそ自分の席まで向かってしまおうか。
そう、ナオから離れようとしたはずの手は、ぱしっと乾いた音を立てて捕まっていて。
「ちょ、ナオなに……っ」
「お前、制裁されたって本当か」
「っ!」
ああ、それか。
あまりの緊迫感に緊張させていた体が脱力する。
そりゃあこれだけ噂が広まってるんだ。いつかは風紀委員長まで届くだろうとは思っていたけれど。しかしここまで心配してくれているのは、風紀委員長としてではなくナオとして、なのが嬉しくて、真剣に見つめてくる瞳に思わず笑みを返してしまう。
「ばか、あんなんデマだよ」
「……」
「んな怖い顔すんなって。だいたい俺が制裁なんてされるわけ――……」
――ダンッ!!
部屋に響いた重い音。
緩い笑みを浮かべた顔のすぐ隣、扉を壊す勢いで突かれた手に。なによりその殺気に満ちた表情に、俺は顔を引き攣らせた。
まてまてまて、いったいなんなの。なんでこんなに怒ってんの?
「な、ナオ……?」
「じゃあ──なんでお前は、サッカー部の部室なんかに閉じ込められてたんだ?」
「えっなんで知って」
「鍵の貸し出しは風紀委員の管理範囲だ。副会長が取りに来たら話題になるに決まってんだろ」
「え、ああー……」
まさか、バレていたなんて。
迫ってくる端正な顔を前に苦く笑う。鍵の管理は風紀委員会だったことをすっかり失念してしまっていた。けれど確かに、副がなんの関係もないはずの部室の鍵を取りに行ったら印象に残るのは当然だった。
もしかして、噂の発端は風紀か?
しかしどうしてあそこにいたかまではバレていないらしいその様子に、ひとまず安堵して息を吐く。間近に迫った親友を安心させるよう、ヘラリと笑みを浮かべた。
「別にちょっとした手違いでさ。制裁はされてないから安心しろよ」
「……なんで、閉じ込められてた?」
「いやだから、別になんでもなくて」
「っんなわけねえだろ!俺に言えないようなことなのかよ……!」
「っ」
その怒鳴り声に、ビクリと肩を震わせる。
なんで、なんて。言えるわけがなかった。
お前が、ナオが告白されているのを見て、ナオに好きな人がいると知って、咄嗟にあそこに逃げ込んだなんて。
ひき攣った顔で見返すしかできない俺に、こちらを見つめる瞳に燃えるような怒気が籠もる。ギリ、と歯を噛みしめたのがわかった。
「許せない。お前が、俺以外に触れられるなんて」
「いやだから、ナオ、」
「こんなことになるんなら、先に奪っとくんだった……!」
「な、ん──……!」
唇に、柔らかい感触。は、と思っているうちにぬるりと入り込んできた生暖かいものに、目を見開いた。ねっとりと舐られる口内。
驚きすぎて腰が抜け、扉伝いにしゃがみ込んでしまう。ずるずると落ちていくのを追いかけてはこず、唖然と見上げるしかない俺を見下ろすナオは、真剣な顔をしていて。
「な、お……?」
「──お前が好きだよ、春樹(ハルキ)。昔からずっと」
「……っ」
「だから、許せないんだどうしても。たとえこれで今の関係が崩れたとしても、やっぱり俺は、」
「ちょ、ち、違う……っ!」
きっと今、俺の顔は真っ赤だ。驚きすぎて、信じられなくて、慌てて両手を振ってナオの言葉を遮った。目なんて見られなくて、視線が泳ぐ。
まさか、まさかナオが俺のことを好きだったなんて。
つまりなんだ、えっと、この間言っていた、俺を号泣させた“好きな人”とは、俺のこと……?
「……お、俺が、サッカー部の部室に閉じ込められてた時間帯、お前自分がどこにいたか覚えてないのか……?」
「俺?」
「……ナオ、あの付近で告白、されてなかった?」
「ん? え、あ……!」
恐る恐るナオの顔を見上げる。
すると怪訝な表情をしていた顔が、思い出したのかすぐに目を見開いた。
「え、じゃあお前、あれ見てたのか?」
「や、その、ちょっと冷やかしてやろうと思って覗いてたんだけど……ほら、お前結構ばっさり断ってたじゃん」
「あーまあ、別にあれはいつも通り」
「──俺、お前に好きな人がいるんだって聞いて、それで俺、わけわかんなくなって咄嗟にあの部室入って」
「え……」
言葉を失うナオに、ごくりと唾を飲む。
そうして意を決して口を開いた。
「だからその、俺、俺もお前のこと、好きなんだけど……」
恐る恐る口にした言葉。
それにぽかんと開かれる口。
そうしてしばらく俺たちは、アホ面を晒したまま見つめ合っていたのだった。
*end*
(title by
確かに恋だった
様)
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