100万打御礼企画 | ナノ
「だあっ!しゃらくせえっ!」
衝動に任せてガラステーブルの上の物をガシャアンと薙ぎ払えば、音に驚いてベッドの方から悲鳴が上がる。その声さえ耳障りでそちらをギロリと睨みつければ、さっきまでのセックスでヤり疲れて眠っていた女は裸のままばたばたと部屋を出ていった。去り際に思いっきり睨めつけられて、俺はガシガシと金髪を掻きながら舌打ちを零す。
―――最悪な、気分だった。
【口を捕わば手が縋る】
カツカツと靴音を響かせながら闊歩する。俺を見た途端に黄色い声が上がり、一瞬で開ける廊下。いつもだったらこの光景に多少なりとも気分が良くなるものだったが、最近はこの光景を見てもいっこうに心休まらなかった。
どうして自分がこんな思いをしなきゃならないのかさっぱりわからなかったし、理解したくもなかった。世のすべては俺に平伏していればいいものを。それなのに、俺に意見し干渉し、あまつさえマウントを取ろうとしてくる人間が、まさかこの学園に存在していたなんて。
(すべては、あの男のせいだ)
憎き男―――それは奇しくも、俺と対となる立場にいる風紀委員長で。
不覚にもたった一度だけ見せてしまった弱点が仇となり、あれから隙あらば絡んでこようとする悪趣味な男。あの男のせいで、最近の俺の気分はいつだって憂鬱だった。
目的地の扉の前で荒々しく進めていた足を止め、ピッとカードキーを通した。ギイ…と音を立てて開いた重厚な扉の向こうには、誰一人いない。最近終始不機嫌な俺に辟易して、役員共が俺を避けているのは知っている。それに、女に逃げられてうんざりして溜まり場を自分一人だけさっさと出てきてしまったのだから、一緒に街に下りたあいつらがいないのは当然だった。だから特に驚きもせずに自分の席へと向かう。
自分専用の椅子に沈むと、シンとした生徒会室にギシリと椅子の軋む音が響いた。それから適当に机の上に置いてある書類をパラパラと捲れば、それらはほぼすべて風紀宛てのもので。吐き気がした。当然だ、あいつに会うのが嫌で嫌で期限ギリギリまで引き延ばしているのだから。
「さいっあくだな」
書類を机の上に放り、吐き捨てる。
これもそろそろ限界だった。締切まであと数日のものがいくつもあるから、会いに行かざるを得ないのだ。誰かに頼むという手もあるが、そんなあからさまに逃げるというのは癪に障ったし、なにより今の生徒会には雑用係の補佐がいない。こんなことになるとは思っていなかったから指名していなかったのだ。族のメンバーだけで固めた方が動きやすかったというのも大きい。
しかし自慢じゃないが、元から深くごちゃごちゃと考えるのは得意ではない。早々にもうこれ以上考えるのが面倒くさくなって、明日どうにかしようと思考を放棄してスマホを取り出した。さっきは気分の悪いままヤってしまったが、今度こそ思う存分ヤって発散しよう。そう思いながら校内のセフレ、通称親衛隊の電話帳を引っ張り出していると、ピッと鍵が解除される音がした。誰か帰ってきたのかと顔を上げると、しかしそこにいたのは、生徒会の人間ではなくて。
「っ、てめ…!」
「お、なんだよ、やっと会えたなかーいちょ」
「なに勝手に入ってきてやがる…!」
「そりゃあマスターキーあるからな」
憂鬱の元凶の登場に、ガタリと椅子から立ち上がる。ニヤリとつり上がる口角に、俺はひくりと頬を引き攣らせた。
なぜこんな変態が風紀委員長なのか、あまつさえマスターキーなんぞを持っているのか理解不能だ。
「はっ、てめぇみてぇな変態野郎がマスターキー持ってるなんて世も末だな」
「安心しろ、俺が襲うのはお前だけだからな。他の奴らにとってはお前が持ってる方が問題だろうよ」
「ざけんなてめぇのせいで俺は…っ!」
「ん?」
ふざけたことを抜かす野郎に思わず要らないことまで口走りそうになる。寸でのところで言葉を飲み込むと、奴は不可解そうな顔をしながら当然のように中まで入ってきた。逃げるのは嫌だというのに、不覚にも反応して咄嗟に間合いをとる体。そんな俺を見て、愉快そうに笑むその顔が、憎くて憎くてたまらない。
「そんなビビんなよ、天下の生徒会長様ともあろう奴が」
「黙れ、てめぇに近づくと吐き気がすんだよ」
「おーおー、泣く子も黙る総長様が随分とかわいいもんだなあ」
「おい、てめぇ馬鹿にすんのもいい加減にしろよ…?」
ギラリと殺気を放つと、簡単にびくっと体を震わせる。ざっと顔色の悪くなる表情。当然だ。本気でやり合おうというのなら、温室育ちのこいつに俺が負けるわけがない。力の差は歴然なのだ。
しかし奴は、顔色を悪くしながらもここから出て行こうとはしなくて。そのままこちらに寄ってきて、ちょうどさっきまで俺が見ていた風紀に提出するための書類をガサガサと勝手に束ね始めた。
「ばっか本気になってんじゃねぇよ、殺されるかと思ったじゃねぇか…」
「は?」
「うんよし、書類完成してるな。回収してくぜ」
「ちょ、え、お前…?」
ぶつぶつと呟きながら回収される書類に、ポカンと呆気にとられる。そのまま出て行こうとする奴に、咄嗟に呼び掛けてしまっていた。
いやだって、まさか、そんなことのためにここに来たというのか?
「なんだよ?お前はちゃんと仕事できんだから頼むから素行どうにかしろよクソヤロウ」
「は?それだけか…?」
「それだけってなにが…あ?」
思わず口走った言葉に、今度は向こうがポカンとする番で。しかしすぐにニタリと厭らしく弧を描く唇。
(しまった…っ!)
咄嗟に身を翻そうとしたも遅く、ガァンと派手な音を立てて壁に押さえつけられる体。どうしてこいつは、こういう時だけ異常な瞬発力を発揮するのか。
間近に異様な熱をはらんだ瞳が迫り、いつぞやの記憶が蘇ってぞわりと体を震わせる。それをみとめるやいなや、噛みつくように口付けられた。
「んんぅっ!ん!ん、んぁ…っ」
「ははっ、ん…っ」
「んん、ひぅ、んっ!」
ぐちゃぐちゃと口内を荒らされて、全身に走る快感に視界が明滅する。あっという間に力が入らなくなり、がくがくと震える手で奴のジャケットに縋りつく。じゅるりと口内の唾液を吸われると、もうなにも考えられずに体を震わせるしかなくて。
「ははっ、なんだよ、待ってたなら言ってくりゃいいのによ」
「はあっ、は、ん…」
脳髄が蕩けてしまったかのように、なにも考えられなかった。全身を眩暈がするほどの甘い痺れが包み込み、体の痙攣が止まらない。
これ以上の悦楽を、俺は他に知らなかった。
「いいぜ、お望みとあらば、いくらでも喰ってやるよ」
厭らしく笑む奴に、期待と恐怖で震える体。
こうしてまたこの快感を刷り込まれれば、思い出すようになってしまうのだろう。普通のセックスじゃ満たされなくなってしまうのだろう。
しかし今までずっと本能に従って生きてきた俺は、こんな気持ちいいことに抗うことなどできなくて。知ってしまった骨の髄まで溶かされるような悦楽が、早く欲しくて堪らなくて。
熱に浮かされる思考のなか、再び与えられるキスに溺れていった。
*end*
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