100万打御礼企画 | ナノ
「お疲れさまでした彼方様。お部屋にお戻りになられますか?」
「ああ、今日はもう疲れたから帰る。お前も帰ってやすめ」
「かしこまりました。では車を正門へ回らせます」
自動でゆっくりと開いた巨大な門を通り抜け、明々と照らされた校舎へと滑るように車が進む。実家で散々見た目だけの華美さをアピールされてきてお腹いっぱいだった俺は、近づいてくる宮殿にうんざりして目を閉じた。
【積愛】
寮のエレベーターを出るときに副と別れて自室へと向かう。窓から見える空は夜云々以前にどんよりと曇っていて、俺の憂鬱が投影されているかのようで気分が滅入る。
久々に帰省した実家は、相変わらずクズ共の巣窟で。
一言目に金、二言目には権威。あっちの家はなんだ、こっちの家はどうだ。もうあそこはダメだ、取り入るならこっちだろう。どこを利用しどこを踏み潰すべきか、そんな会話を未成年の息子の目の前で平気で繰り広げ、あまつさえ巻き込もうとする大人たち。
そんなことでビビるほど柔ではないが、それが当たり前だと、正常だと思うほど奴らに染まっているつもりもなかった。
『そうだ彼方、あそこの息子とはどうなんだ、倉科(クラシナ)のところの』
『倉科…?あいつは、』
『一緒に学園を運営しているんだろう?倉科の息子は生徒会長らしいじゃないか』
お前が風紀委員長だなんて、私たちも鼻が高いな。仲良くするんだよ。
そう言って上っ面だけ微笑むその顔に、反吐が出そうだった。こいつらは結局、俺が智哉の家とのパイプになることしか望んでいない。そうして倉科というデカいネームを利用することしか考えていないのだ。息子の交友関係など欠片も考えていない。
こいつらにとって鼻が高いのは俺ではなく、倉科とパイプが持てる地位、だけだ。
『…前にも言ったとは思いますが、俺はご期待には添えませんよ、父上母上』
『なぜだい彼方?』
『なぜか?それは俺が風紀委員長であいつが生徒会長だからです。父上ならご存知だとは思いますが、俺たち二人の役職は相容れない』
そう言えば、学園OBの父はああそうか、と残念そうな顔をする。昔も今も、生徒会と風紀委員会はトップを筆頭に敵対している組織なのだ。昔は今よりも相当いがみ合っていたと聞くから、諦めさせるには絶好の関係性。
俺と智哉が希代の仲のいい両翼だとは言わなければいい話だ。
『しかしだな、倉科とパイプが持てればどれだけ…』
『そうよ彼方、どうにかならないの?あそこは使えるわ』
『…ご期待に添えず申し訳ありませんが、やめてください』
なにが使える、だ。もう隠しもせずあからさまに利用しようとしていることを宣う両親にうんざりして立ち上がる。気分を害したと眉間にしわを寄せ、吐き捨てるように言い放った。
『あいつとそういう関係なんて反吐が出る。もう二度と言わないでください』
『あっ、ちょっと彼方、もう帰るの?』
『今日はこれで失礼します』
そう言って出てきた実家。あんな見た目をゴテゴテに飾って表面だけ取り繕って、中身はぐっちゃぐちゃに腐ってるような家、一瞬たりとも長居したくない。
そう思って飛び出してきたはずなのに。
(結局ここも同じに見えら)
そういう世界にいるから仕方ないのだし、ここはすべてが張りぼてじゃない分マシなのは確かなのだけれど。帰省して敏感になっている今、この学園の華美さの裏側に隠れる醜さを無理やり探そうとしてしまう自分がいる。どうせ一緒か、と思ってしまう自分がいる。
実家から帰ったときは、いつもセフレを呼び出していた。持て余すイライラだったりモヤモヤだったりは、運動して発散するに限るのだ。しかしなぜか、今日はそんな気分にはなれなかった。
それはきっと、最後に両親と交わしたのが智哉に関する会話だったから。
(今日はもう、帰ってシャワー浴びて寝よう)
歩調を早める。とっとと眠ってしまいたかった。寝て起きて、早く智哉に会いたいと。
すぐにたどり着いた自分の部屋。ピッとカードキーを通した。
「おーおかえりー」
「…は?」
ガチャリと扉を開けた俺を迎えたのは、他でもない智哉で。
ポカンと呆気にとられる俺に、してやったりと喉を震わす。
「おせーよ彼方。とっくに鍋できてっぞ」
「は?ていうかトモ、なんでここに」
「んー?まあ…伝家の宝刀を、使ったまでだ…」
「バーッカ、職権乱用しやがって」
マスターキーをピッと出しながらわざとらしく遠い目をする智哉に思わず吹き出す。ニヤニヤする智哉の頭を叩いて中へと入ると、リビングには土鍋が設置されていた。
「温めとくからさっさと着替えてこい」
「うまそうだな」
「そりゃあな。俺の愛情こもってっから」
そう言ってニヤリと笑う智哉に思わず眉を下げる。
ああもう、こいつは。これ以上お前のことを好きにしてどうするつもりだ。
今日来てくれたのがたまたまなのか、なにか智哉なりに勘付いてなのかはわからない。だけどたまたまだってなんだって、これほど嬉しいことはない。これほど癒されることもない。
思い切り抱きしめたいけれど、それは今の俺には許されないから。
おまえ最高だよ、と笑ってみせて、智哉が声を上げて笑うのを見つめた。
*end*
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