Arcadia番外編 | ナノ





「はーくん!はーくんどこにいるのっ?」
「ゆー、こっちだよ。どうしたの?」
「はーくん!よかった…ひとり、やなの。いっしょにいて…」





【変わらないきみのまま】





「38度5分…」



祐が咄嗟に隠そうとした体温計を奪い取って確認した数字に、俺の方までくらりとする。熱があるのはわかっていたが、ここまで高いなんて。平熱の高い俺でさえ38度を超えると辛いのだから、元々平熱の低い祐は相当しんどかったことだろう。普段なら体調不良など意地でも勘づかせないのに、今日は隠し通すことができなかったのがなによりの証拠だ。



「へーき、だから…」



だというのに無謀にも起き上がろうとする祐を、無理矢理布団の中へ押し戻す。普段からは考えられない弱々しい抵抗に眉を寄せた。



「ばーっか。お前のどこが平気なんだよ、ちょっと寝てろ」
「でも、」
「俺一人で大丈夫だから。つーかもう今日はめんどくさいからサボるよ」
「お前な」
「うん、祐が心配だから」
「……」



拗ねたように俺を睨む祐。熱のせいで目力が落ちているせいかいつもよりかわいく見える、なんて口が裂けても言えないけど。



「なんか買ってくるけど、なにが欲しい?」
「……………ポカリ」
「ん、了解」



いつもより素直で頼ってくる裕がやっぱりかわいいなぁ、なんて。
さらりと前髪を撫でてから立ち上がる。部屋を出ようとするとかかる声。



「隼人」
「ん?」
「ごめん」
「ん?なにが?」
「ごめん…俺がこんなで」
「…なに、言ってんの?いらねぇ事考えてねぇで寝てろよ」
「…あぁ、ありがとう」



次いで小さくまた紡がれるごめんに、なんだか酷くむしゃくしゃして。俺はあからさまに眉を顰めると、それには応えずに力任せに扉を閉めてやった。





***





「ただいまー」



購買部でポカリやらお粥の材料やらを買って帰ってきて開いた扉。
いつもなら必ずかかるおかえりの声がないことに、一瞬呆けて。すぐに自分がなんで買い出しに行っていたのかを思い出す。そしてさっき俺がどうやって祐の部屋を出たのか、も。



「っあー…最悪、なにしてんだ俺」



キッチンに食材を置きながら、ため息と共に項垂れる。

祐があんな反応をすることぐらい、わかってたじゃないか。それなのに俺は、珍しくあいつが俺に頼る姿が嬉しいだなんて、楽しいだなんて、思ってしまった。



(あいつが必死に隠してたってことぐらい、わかれよ馬鹿)



きっとどこか昔のようだと内心はしゃぐ俺を、あいつは勘づいていたんだろう。だからこそ俺の望む流れに、俺があいつを世話する流れに、持っていってくれた。きっとあいつは、俺に世話されることなんて、望んでない。俺にとって迷惑だと思っているだろうから。
…あぁもう、あいつは俺のことをなんでもわかってくれるのに、どうして俺はわかってやれないんだ?

俺はいつだって、あいつのことばかり考えてるっていうのに―――…





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