Arcadia | ナノ
突入する。
忍び込むことも策を練ることさえままならない、おまけにぼんやりしてたら篠崎になにされるかわかったもんじゃない。こうなったらもう正面突破、いっそ派手に威圧する、これに限る。
ガシャァン!!と派手な音を立てて扉を蹴破る。ざわつき臨戦態勢になった向こうさんは、合わせて5人か。その向こうに、縛られて床に転がされている篠崎の背中と、その傍らに膝をつく菱川弟の姿が見えた。大丈夫か、篠崎はまだ無事か。
「なんだなんだ、せっかくの体育祭日和だってのに随分端っこにいるじゃねぇか」
「会長せんぱ…!」
「よお菱川弟、ひさしぶりだな」
驚いて立ち上がった菱川に向かってにこりと笑いかければ、苦虫を潰したような表情をする綺麗な顔。俺の後ろから入ってきた隼人と祐の殺気に、黒服ども今にも襲い掛かってきそうなほど殺気立った。今にも乱闘が始まる一触即発の雰囲気のなか、しかし最後に入ってきた菱川兄の存在に気づいた弟がそこに待ったを掛けた。
途端に少し落ち着く雰囲気。さっきの流れからこいつらは雇いの野良かと思ったが、思ったよりもよく躾けられてるな。
「待って、なんだ、あんまり早いからどうしたのかと思っちゃった…瑠依だったんだね、安心したよ」
「る、瑠佳、もうこんなことやめよう!もう帰ろう!」
「なに言ってるの瑠依、まだ始まったばかりでしょう?」
焦りは一転、余裕に変わった。
嬉しそうに綺麗に笑った弟が、今度は俺の方を向く。ひたりと見据えられて、思わず挑発するような笑みを返してしまった。なんだ、てっきり篠崎をどうにかしたいだけかと思っていたが、それだけではなさそうだ。この弟は、どうやら生意気にも俺に用事があるようだ。
「ひさしぶりだね会長先輩。最近会計先輩と楽しそうだって聞いてるよ」
「稲嶺?あいつはうるせぇだけだよ…お前らが帰ってきてくれると数倍助かるんだが」
「それは光栄だねぇ瑠依。僕らあの会長先輩に必要とされてるみたい」
ふふっと笑みを浮かべる弟の顔は素材のおかげで綺麗だが、しかし感情が乗っていない。どこか虚ろで、壊れかけているのは傍目にも明らか。菱川の双子は元より破天荒だったが、今のこいつはそれに輪をかけてなにをしでかすかわからない。それは以心伝心、なはずの双子の兄にとっても同じようで、視線を困惑したように俺と弟の間を行き来させていた。
ちらりと視界の端に映った祐が、さりげなく菱川兄の近くへと移動しているのを確認する。この中では菱川兄が一番危険だ。そして同時に、ある意味一番安全でもある。彼をどう使うかで、きっと俺たちの勝敗は決まる。
「なあ菱川、その稲嶺が今、運営を一人で回してんだ。用があるならちゃっちゃと終わらせちまおうぜ」
「そうだね会長先輩。瀬奈も――――篠崎も、辛そうだし」
「瀬奈…!」
怠そうにそう言った菱川弟が、篠崎の体を足蹴にしてごろりとこっちを向かす。俺を見て申し訳なさそうな泣きそうな表情をしたビスクドールの様な顔には、まだ傷一つなかった。よかった、とりあえず顔面はまだ無事か。そんな顔すんなよバカ。
猿轡を噛まされた篠崎に気づいて泣きそうな声を上げた菱川兄に、弟は忌々しそうな、それでいてどこか泣きそうな顔をした。
「うるさいよ、黙ってて」
「でも、でもなんでこんなこと!瀬奈がかわいそうだ…!」
「なにもわかってない、瑠依はなにもわかってないよ。こいつは僕らにとって、なによりも邪魔な存在なんだ…!」
「んぐぅ…ッ!」
こんな状況でもまだ抵抗して睨み上げる篠崎の腹を、菱川弟が思い切り蹴り上げる。くぐもった呻き声。居てもたってもいられずに飛び出そうとした兄を、祐が咄嗟に捕まえた。ぐっと拳を握り締める。悪い篠崎、もう少し、待っててくれ。
ゴミを見るような目つきで篠崎を見下ろす菱川の目に、冗談の色などどこにもない。その視線がゆっくりと上がり―――ひたりと、真正面から俺を見据えた。
「会長先輩…あんたもね」
ふわり、綺麗な笑みと共に言われた言葉に、俺は頬を引き攣らせた。
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