Arcadia | ナノ
「こちら生徒会。篠崎班、今の状況を」
『…………』
「おい、篠崎班?どうした、応答しろ。篠崎班!応答しろ!!」
『…………』
呼びかけども返事のないイヤホン。個人には二人ずつ警備がついているはずだ。それなのに、どちらからも応答がないなんて―――警備まで、巻き込まれたか。
「ちくしょ…っ」
「瀬奈…!」
「あっおいお前ら待て!」
焦る俺に、やはりまずい事態だと察した高科と高瀬が駆け出した。咄嗟に止められず、すぐに人混みの中へと消えていった背中にちっと舌打ちをする。しかしそれと同時に反応のなかったイヤホンから峰岸の声が聞こえ、意識をそちらへと戻した。
『おい瀬戸どうした、なにがあった』
「くそっ…1-Cの篠崎瀬奈が行方不明だ!篠崎班とも連絡がつかない。各自特定人物の警護班はしっかりと張っとけ!その他の手が空いてる奴らは篠崎と篠崎班の捜索にあたれ!」
指示を受け取り、了解の言葉と共に警備が動き出す。俺はまだ姿を見せない隼人が消えた角の方へと向かいながら、すぐにチャンネルを運営へと切り替えた。角を曲がったところで待っていた隼人とアイコンタクトをとりながら、マイクに向かって口を開く。
グラウンド周辺は人が多くて騒がしいが、一つ外側に出てしまえば一気に人影がなくなって静かになった。こんな場所が広大にあるなんて、敷地が広すぎるのはこうなると欠点ばかりだ。
「稲嶺聞こえるか」
『はいはいたっくん、なんでしょーう』
「悪い、俺はこれからしばらく戻れない。運営を頼めるか」
『それは大丈夫だけど…なにかあった?』
応答した通常モードから一転、すぐに察して心配そうな声音。
だがきっと、ここで篠崎の話をしたらこいつはいてもたってもいられないだろう。それでは困る。俺には今、お前しか運営を任せられるやつはいないんだから。
「ちょっとな。だけど心配するな、お前は運営にだけ集中してくれ」
『俺には言えないことなの?』
「戻ったらちゃんと話すから。だけど今は、滞りなく体育祭を進めることに集中してもらいたい」
『………』
不満そうな空気がありありと伝わってくる沈黙。しかしどうせ俺は折れやしないと判断したのか、すぐにはーっと負けを認めるため息が聞こえてきた。
『…無理だけはしないでよ、会長』
「ああ。そっちこそ頼んだぜ」
『もちろん。まっかせといてよ』
威勢よく応える声に、ふっと笑った。こいつなら大丈夫だと、確信を持って任せられる。帰ってから事後報告したらこっぴどく怒られそうだと思いつつ、一先ず安心してチャンネルを切り替えた。
さあこれで俺も動ける。稲嶺のためにも、一刻も早く篠崎を見つけなければ。けれどその前に、と目の前にいる隼人を見た。
「なにか話があったんだよな?」
「いや、あとでいいよ。話は聞いてたから、早くあの転入生くんのこと探そう」
あっさりと首を横に振る隼人に頷く。確認などとらずとも、今の優先順位は篠崎がトップだ。
学園でそういった犯行に使える場所なんて限られている。そしてどこが使われやすいのか、学園一の情報通である隼人はきっと容疑者の次に詳しい。
案の定迷わずに駆け出した茶色い頭に続こうと踏み出した足。
しかし今度はそれを、男にしては高めの声が引き留めた。
「会長先輩…!」
次から次へと、今度はいったいなんだってんだ。
いい加減にしてくれと思いながらぱっと振り向いた先、こちらに向かって必死の形相で走ってきたのは―――それは確かに、うちの書記の姿で。
「菱川兄…!」
「ちっ、菱川…」
足を止めた俺に気づいて隼人も振り返る。そして同時に忌々しげに放たれた舌打ち。しかしそれに反応するよりも先に、俺の意識は菱川の必死な姿に持っていかれる。
「会長先輩助けて!僕じゃ、僕じゃ瑠佳を止められない!このままだと瀬奈が…!」
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