Arcadia | ナノ
『これは速い!圧倒的に速いです!今まで不参加で秘められていた身体能力が今!明かされています!!さすが肉体派風紀委員!!』
放送の熱の入った解説を押し潰すくらいに熱狂している応援。どちらもがかき消されるものかとどんどん大きくヒートアップしていくものだから、盛り上がり方が尋常じゃない。
そんな熱狂を横目に、俺と稲嶺はバサバサと書類を捲る。つーか肉体派風紀委員ってどういう意味だ。だったら風紀と対比される俺たちはなんだった言うんだよ。ガリ勉か?上手いことインドア派とでも言う気か、ああ?否定できないのが悲しいところだが、とりあえずさっきから風紀に対する対抗心が異様に燃えている。てめぇらを競技に出せるようにしてやったのは誰だと思ってやがる。くそ、出てたらコテンパンにしてやるものを。
「綱引きの綱の準備は?まだ?急げもうすぐだぞ!」
「こちら運営だよー騎馬戦の選手の控え用スペースの確保もう始めちゃってー」
「あー…そこが通せないか。わかったこっちで時間を稼いどく」
「あ、いやそうなんだけど、うん、騎馬戦は人気ある子多いから早めに広めに、ね?」
しかし残念ながらこの忙しさじゃ、もしかしたら出られたかもとも思えない。
ついさっき暗に放送に馬鹿にされたような気がする俺たちはというと、各々担当の競技のためにインカムに向かって指示を出していた。時折入ってくる警備の定時報告を聞きつつ、的確な指示を出すのが俺たちの役目。運営は最初が勝負だと思ってる。スタートダッシュさえ決められれば、あとは順番に指示を出していけばいいだけだから。
「忙しそうだなァ」
「あ?…ああ、お前か」
「インカム受け取りに来たぜ。俺の宣誓どうだったよ、かっこよかったろ?」
「警備のはそこだ。悪いな、よく聞いてなかった」
そこにふらりと現れたのは、諸悪の根元峰岸暁斗。そんなこっちゃないのはわかってるが、なんかもう今の俺には敵にしか見えん。
ここに来たのはただの冷やかしかと思ったら、一応用事はあったらしい。そういえばこいつ、これから警備だったか。自慢気に聞かれたことにはっと鼻で笑って答えてやれば、峰岸は不満そうに眉を寄せた。ふん、あのどや顔を向けられた時の俺の気分よりもマシだろ。
「ンなこったろーとは思ったけどよ。奥でじゃれあいやがって」
「え、聞こえてたか?」
「そりゃさすがに向こうまでは聞こえてねぇが、前まで来ると丸聞こえなんだよ」
「げ」
「あららー、じゃあ俺たちがイチャイチャしてたの全部体育委員会のみんなにバレバレだねぇ」
「っ、なんだよ」
真面目に仕事してたと思ったら、急に片手に資料を持ちながら後ろから伸し掛かってくる稲嶺。耳元でお仕事終わってないよかーいちょ、と囁かれ、耳朶にちゅっとキスされる。
こいつはまた、と眉を寄せた。
「わかったから離れろアホ、重い」
「えー!いーやだー」
「ったくてめぇらは…ンなことしてっから下半身生徒会とか言われんだろ」
「なんだそれ?聞き捨てならねぇな…だいたいこいつのキスなんて挨拶だろうが」
「そう思うかどうかは外野の問題だがなァ」
「うっせぇな、さっさと警備いってこい風紀委員」
なんだそりゃ、まだそっち系の噂は広まってんのか。うんざりしながら背中のチャラ男を引き剥がす。
その時、定時報告で知っている声がイヤホンから聞こえてきて、俺はつい声を掛けた。
「おい、お前騎馬戦でるって言ってなかったか長谷」
『あ、はい。そろそろ交代します』
「そうだ、特別に応援してやるよ」
『あはは、いいんですか会長、自分は緑ですけど』
くすくすと笑っている声が聞こえる。その声につられて俺もふっと口許が緩んだ。
組分けは毎年クラス別にされていて、今年も例年通りSが赤、Aが青、Bが黄色、Cが緑、Dがピンクとなっている。その基準からいくと俺は赤、なんだが。
「いいだろ別に。俺参加してねぇし」
「待てお前、仮にもSなら赤応援しろよ。つーか長谷、てめェはなーにを楽しくお喋りしてんだ、あァ?」
『委員長…』
「…まだいたのか峰岸。さっさと行けって…」
いつの間にか自分もインカムをつけて、すかさず会話に割り込んできた峰岸。チャンネルを合わせる早さにドン引きしていると、交代してきますとだけ言って長谷の声が消えた。
どや顔の目の前の男に、自分こそお喋りしてないで仕事しろと呆れ果てたところで―――ウオオオオッというさっきまでとは毛色の違う歓声が轟いた。
prev
|
back
|
next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -