Arcadia | ナノ
快晴。気温は低め。風はなし。視界良好。
―――最高の、体育祭日和。
「んんーっ!きっもちいーいねー!」
「ほんとにな」
「最近ずっと中にいたからわくわくするーっ」
「わかったからはしゃぎすぎんなよ」
運営のテントの下で、稲嶺が本当に嬉しそうににっこにことしてるもんだから親衛隊とおぼしきチワワたちがソワソワしてるのがわかる。その姿に形だけたしなめつつ俺の口も自然と緩んだ。
現在絶賛開会式中。
体育委員会の委員長が進行している後ろのテントで、俺たちは珍しく控えてるだけだ。選手宣誓だって選手じゃない俺たちには役目が回ってこない。あーやっぱ、俺たちも競技参加したかったな。
「お前さ、競技出られたとしたらなにやりたかった?」
「んー…そうだなームカデ競争とか、綱引きとかかな?」
「へぇ、ちょっと意外だな。もっと花形いくかと」
「そう?せっかくだからみんなとわいわいやりたいじゃんねー」
そう言ってニッと笑う稲嶺につられて俺も口角を上げる。
そうか、確かにそう考えるとお前らしいな。
「かいちょーは?なにやりたい?」
「そりゃ騎馬戦とかリレーとかな。棒倒しもやりてぇ」
「あっはは、かいちょーっぽい!ちょー肉食!」
もしもの話だけでけらけらと楽しそうに笑う稲嶺に、やっぱりなんとしても競技する暇を捻り出すべきだったかと少し後悔。でも今回は風紀の時間をなんとか調節できただけでも上出来なんだよ。お前も必死で色々処理してくれたが、それでもこれで精一杯だったんだ、悪い、稲嶺。
「かいちょーの応援団長も見たかったー」
「え、お前それ」
「あっ…かいちょーの手帳、こないだ開いてたの見えちゃったんだ、ごめんね」
垂れ目の目尻をさらに下げる稲嶺に、俺はぱちぱちと瞬いた。
まじか、あれ見られたのか。やりたいこととか変えたいこととかとりあえず書き殴ってある、あれをか。
「色々さ…変えていけるといいね、俺たちが」
「…ああ」
「俺もちゃんと考えるよ。流されるだけじゃなくってね」
そう言って、ふっと笑う。
こいつのこういう所、ズルいよなと思う。いつもはチャラけてる癖に唐突に真面目な顔しやがって。このギャップをわかっててやってんなら、本当にこいつ、質が悪い。
なぜだか無性に舌打ちがしたくなって、だがそれもそれで負けな気がしてふいと視線を逸らす。すると逸らした視線の先、苗字はま行のくせになぜかうちのクラスの最前列にいる男と目があった。え、と思ったその時に、それまでは流し聞いていたのにやけにはっきりと聞こえた体育委員長の声。
『それでは、選手宣誓。3-S 峰岸暁斗』
―――え、嘘だろ。なんでここで、こいつが。
ぽかりと口を開けた俺に、ご丁寧にニヤリとどや顔をしてから前に出てくる峰岸。右手をすっと上げるそいつを穴が空くほど見つめた。
おいまじかよ!こいつが選手宣誓だったっけか?つーか今のどや顔なんなんだ!
「おー委員長だー」
「えっ、おま、知ってたか峰岸だっての」
「やー予想はしてたけどねー。だってほら、毎年体育委員会が決めて当日まで内緒じゃない」
「だっ、でも俺たち運営じゃねぇか!」
「まあ開会式は委員会が進行だからねぇ…俺たちが持ってる行程表には開会式としか書いてないし?」
かいちょーだってそこは任せるって言ってたじゃない。そう言われてしまえば、返す言葉などないんだが。
でもだって、関係のないやつならまだしも、峰岸だぞ。他でもない風紀委員長だぞ。好敵手とも言われる生徒会長としては悔しいじゃねぇか。
「まあまあ、俺たちは選手として参加できてないんだから仕方ないでしょ」
「そう…だけど」
「はいはい拗ねないのー」
むくれているのをよしよしと慰められる。それでもやっぱり釈然としなくて、俺は変わらずむすっとしながら宣誓をする峰岸の後ろ姿を見つめた。
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