Arcadia | ナノ
「そうだ、お前明日はなにすんの?」
「第三エリアの警備です」
「や、そっちじゃなくて競技の話」
「ああ、そっちは俺、騎馬戦でます。あと借り物競争」
そっちはってなんだ、そっちはって。体育祭でなにすんのか聞かれたら普通は競技の話だろ、仕事じゃなくて。この仕事馬鹿め、少しは楽しもうとしやがれってんだ。
なんて、明日はずっと運営の仕事で参加する暇のない俺に言えたことじゃないんだが。今年からは運営に何人もいらねぇから交代で競技出ようと思ってたのに。生徒会長と風紀委員長がトップでガチンコバトルとかしたらきっとすげぇ燃えるだろうに。せっかく色々考えてあったのに、あのアホ共が仕事しねぇから馬鹿みたいに忙しいじゃねぇか、くそ。
「いいな、俺も騎馬戦とかやりたかった」
「会長が出たら大混乱じゃないですか」
「そうか?でも峰岸だって出るじゃねぇか。きっと盛り上がるぜ?俺に貢献しよう、いいとこ見せようって、いつも日陰にいるチワワ共も張り切るかもしれないだろ」
生徒会は馬鹿みたいに人気のある集団なんだ。だったらその人気を活用しない手はない。俺たちが出たら運動嫌いなやつらの中から数人くらい頑張ろうとしてくれるやつも出ると思うんだがな。
しかし残念ながらこの案は俺の代ではお蔵入りだ。次期会長に託すしかない。あーあ、俺応援団長とかやりたかったのに。
「俺、会長のそういう考え方、好きです」
「ん?」
「他の委員から助っ人だして警備増やして、俺たちが参加できるように提案してくれたのも会長だって聞いてます」
「あー…まあ、体育祭なんざ、参加して楽しんでなんぼだろ」
「はい、みんな楽しみにしてますよ。ありがとうございます」
まったくこいつは、本当に素直だな。今時こんな素直に紳士に直球に物を言うやつなんて早々いない。でも、俺はこういうやつ、嫌いじゃない。
とりあえず俺は、照れ隠しにもう一度長谷の頭をくしゃりとかき回したのだった。
***
「ただいま」
「かいちょーおっかえりー!」
カードキーを通してガチャリと開けた扉。中に入ればパソコンに向かっていた難しい表情から一転、こちらを見た稲嶺はぱあっと顔を輝かせた。
そのあまりにも急激な変化に苦笑する。こいつ最近、ただのチャラ男からワンコ属性まで兼ねるようになったような気がするのは気のせいか。いや、というかそもそも構いたがり構われたがりな性格だからか。
「おじゃまします」
「あららー?風紀の一年くんじゃん、いらっしゃーい」
「稲嶺、茶」
「えーなにそれ!たっくん最近俺使い荒くね?なにそれ俺メイドさん?萌え萌えキュンする?」
「うるせぇなてめぇは、早くしろ」
「あーでもたっくん専用ならいいかもぉ」
たっぷりご奉仕しちゃうよーとうっとりと満更でもなさそうに言う稲嶺に口許をひくりとさせると、なにかを感じ取りバタバタと給湯室に駆け込んでいった。ったくあいつはと呆れつつソファに座り、長谷にも座れと促す。
さっきの会議で使った資料をぱらぱらと捲っていると、すぐに稲嶺がお盆に色々乗っけて戻ってきた。
「お待たせしましたー稲嶺誠二スペシャルブレンドでーっす」
「は?てめ、変なもん入れたんじゃねぇだろうな」
「ええーっ!俺ったら信用なさすぎるー!」
「あ、でも美味しいですよこれ…多分。や、紅茶あんま飲まないんでよくわからないですけど」
「いい、無理するな長谷」
一口飲んでフォローしようとしてしきれずに笑って誤魔化す長谷に、とりあえずごめんと言いたい。先輩だからって気を使ってくれたんだろうが、こいつの話は八割頭を通らずに口から出てるだけの適当なもんだからフォローなんざしようと思ってもできるもんじゃない。寧ろフォローしようとしたこっちが火傷するんだ、やめておけ。
「つーかこれ、ただのアッサムじゃねぇか」
「あっバレたー?はーい、ミルクも一緒にどうぞー」
「えっ俺のフォローは…」
「えへっ」
「悪い長谷、こんなんが会計で、ほんとごめん」
「あっいや、はい。自分は大丈夫です…」
かわいこぶって隣に座る稲嶺の頭を思いきりはたいてやった。
何度か長谷が風紀じゃなかったらと補佐にするのにと思ったこともあったが、風紀で正解だったのかもしれない。きっと稲嶺やら菱川兄弟やらとずっと一緒にいたら保たないよ、お前は。
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