Arcadia | ナノ
あれから―――なんの連絡もなく、それどころか隼人と祐の姿さえ見なくなってから、五日。とうとう今日は体育祭前日となっていた。
どうして姿を見せないのか心配ではあるけれど、今までだって何日も会わなかったことはある。特になにか調べごとをしている時の彼らを追うことを俺には無理で。最近はよく頻繁に連絡をとっていたから、接触のないこの状態が不自然な気がするだけだろう。
(…なにに苦戦してんだ、あいつら)
最近は頼めばすぐに答えが返ってきていた。二人とも楢原への報告義務のために、生徒会長の動向やら評判を探るためのあらゆる情報網があるわけで。
それなのに、菱川兄弟の“今”について調べる上でぶつかった障害。学園での動向ならすぐにわかるはず。恐らく学園の外のことで引っ掛かるなにかが、あったんだろう。だから、少しいつもより時間がかかってるだけだ。
頻繁に姿を消すあいつらと幼馴染みなんて、そうとでも思ってないと心配すぎてやってられない。
「会長!ちょっといいですか」
最後の詰めの会議も滞りなく終わり、あとすべきは明日きっちり運営するだけ。いつだって全面に押しでる生徒会にしては珍しく運営という裏方に徹するこの行事を、俺は密かに楽しみにしていた。
最後にもう一度、稲嶺と流れの確認でもしておくか。そう思い席から立ち上がった時だった。会議室の扉の方から掛けられた声に視線を上げると、思わぬ人物がいて。脇目も振らず俺にこっちこっちとアピールしてくる姿に、自分のトップは無視かと苦笑しながらそちらへ向かった。
「こんなところまでどうした、長谷」
「ちょっとお時間いいですか?」
「俺はいいが…お前、峰岸はいいのか?」
まだ他の委員会に捕まってなにか相談している風紀の長をチラリと見るも、長谷は大丈夫ですときっぱり言って背を向ける。まあお前がいいならいいか、と俺はそのあとに着いて会議室を出た。
「生徒会室でお話ししてもいいですか?うちより近いですし、さすがにここじゃちょっと憚られるので」
「ああ、構わねぇよ。篠崎周辺のことだろ?緊急か?」
「や、緊急ってわけじゃ…まだよくわからないんですが、明日体育祭もありますしとりあえず報告をと」
「そうか、助かる」
横に並びながら少し悩みつつ言う長谷に、ふっと笑ってくしゃりと髪を混ぜる。そうすると対応に困って、いつもは精悍な顔が戸惑ったような困った表情をするから堪らない。ついやってしまいたくなる。
「ちょっ、会長」
「ん?」
「いえ…ご機嫌ですね」
俺が自分で遊んでるってわかってる長谷は、最近は最初から抵抗なんざ諦めている。それでもやっぱり釈然としないのか、拗ねたように口をへの字にしながら俺を見てくるデカイ後輩。隠そうともしないそのじと目に、こいつも遠慮なくなったなとニヤリと笑う。
「わかるか?」
「そりゃわかりますよ、そのくらい」
「楽しみなんだよ、明日」
「それはちょっと意外です」
だよなと言って喉の奥で笑う。俺だってビックリだ。
考えてみれば、ちょうど体育祭に向けて色々始めなきゃならないって時に篠崎がやってきたわけで、あの頃は体育祭なんて気の遠くなるような量の仕事をした先のことで、ちゃんと迎えられるはずがないと思っていた。それに正直、体育祭なんてただただ仕事増やしてくれる行事だという印象しかなかったから。
だからもしかして、こうしてここまで来られたのが嬉しいのかもしれない。
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