Arcadia | ナノ
〈SIDE:xxx〉
「ふー…」
ガサガサと机に広げていた書類をまとめつつ、小さく息を吐く。
いや、わかっていた。ずっと見てたからわかっていたんだ。だけど書類の上の文字ではなくて実際にどのくらい量なのかを見てしまうと、その大変さを改めて思い知らされる。なにもせず、見ているだけしかできない自分が酷く不甲斐なく、もどかしく感じるから余計に。
(助けてやれねぇのが悔しいな)
自分は“見る”ことが仕事だから。俺にできるのは、結果的にどうなろうともしっかりと最後まで“見て”いてやることだけ。わかってる。わかっているのだけど、その役目を忘れて思わず手を出してしまいそうになる。
あいつのためだなんて言いつつ、あの人も随分と酷なことをする、なんて、下らないことを考えてしまう。本人はしっかりとそれを受け止めて立ち向かおうとしているというのに、外野が口だしてちゃ世話ないな。
「…やめやめ。とっとと帰るか」
どうもあらぬ方向に向かいたがる頭を軽く振り、トントンと書類を揃える。それを元の棚へと戻そうと腰を浮かしかけた時、しかし唐突にピーッとドアのロック解除音が鳴った。咄嗟に隣の生徒会室と繋がっている扉を見れば、僅かながら開いているのに気づき、ちっと舌打ちをする。
「たっだいま〜!」
「はいはいおかえり」
ついで響く声に、ぴたりと動きを止めた。
(しまった、長居しすぎたな…)
時計を見れば、引き上げようと思っていた時間より20分も経っていた。思わずまた舌打ちしそうになりながら、極力音を立てないようにそろりと立ち上がる。この準備室から直接廊下へ出られるドアもあるから、一応問題はないんだが。
しっかしドアは閉め切れてないわ、時間の確認を忘れてるわ、なにやってんだ俺は。油断しすぎだろう。
「美味しかったねぇ」
「ん、そうだな」
「お腹いっぱいになったし誠二くん午後もばりばり働いちゃうよー!」
その言葉に、なんだそりゃと笑いながら応える声。
そのどこか楽しそうな柔らかい声に、無意識の内に頬が緩んだ。
―――あぁ、そうか。
そうだったな、稲嶺は戻ったんだったな。
「でもちょっと眠くなっちゃうね」
「まぁ飯食ったあとのこの時間はな…仮眠室使ってもいいんだぜ?」
「じゃあたっくん一緒に寝ようよー」
「俺は寝ねぇよ、一人で寝てろ」
「…広いベッドで独り寝は寂しいよ…一緒に寝てくれないの?」
「黙れ」
急に艶のある声を出して口説きにかかった稲嶺を容赦なく一蹴する素っ気ない声。思わず声を出して笑いそうになりながら、そっと棚へと書類を戻す。
これならきっと、大丈夫だ。
0と1は違う。さらに仲間がいるのといないのとでは、全然違う。
共闘する仲間、守るべき仲間が戻ってきたのなら、あの子はきっと大丈夫。
(…さすがあの人の息子だな)
一度離れた人間を引き戻すことは難しい。
彼が彼であるからこそ、できたこと。
久々にいい報告ができることに気分が浮かれる。
情報として持っていたとしても、実際に見ると印象がまったく違う。それは良いことにも悪いことにも言えること。
油断したことで思わぬ収穫を得られたことに感謝しつつ、さすがにもうこれ以上の長居は無用だ。名残惜しく思いながら、じゃれあう二人の声をBGMに俺はそっと外へと出たのだった。
〈SIDE END〉
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