Arcadia | ナノ
「誠二…!」
「はろー瀬奈、元気だったー?」
「稲嶺降りろ、重い!」
俺の背中に乗り上げるようにのしかかり、そのままのんきに挨拶をする稲嶺を振り落とす。ストンと降りた稲嶺は、今度は篠崎に抱きつきにいく。一瞬でもじっとしてられないのかあいつは…!
「ん〜っ!四日ぶりの瀬奈だぁー」
「ちょ!瀬奈から離れろこのチャラ男!」
「ちょっと誠二、苦しい…」
「てっめぇは場所をわきまえろそして空気を読んでくれ!」
ぎゅーっと篠崎を抱き締める稲嶺の襟首を掴んで無理矢理引き剥がす。ったくこいつは相変わらずだな…!
「いたいいたい!やだたっくんたら嫉妬ー?」
「お前いい加減黙れよ…」
こうしている間にも野次馬は着々と増えていく。これでもし他の役員が来やがったら本気で収拾がつかねぇな。やっぱり俺も篠崎もさっさと退散するのが得策だろうな、と篠崎と高科を見ると、二人とも驚いたようにこちらを見ていた。
「最近見ないと思ったら…会長のとこ戻ってたんだ、誠二」
「あーうん…ごめんねぇ、何も言わずにいなくなって」
「はっ、てめぇ裏切んのな…まぁ俺にとっちゃ好都合だが」
軽く緩く謝る稲嶺に高科がシニカルに笑う。
やっぱり生徒会には関係ないやつでもそう思うのか。俺側と篠崎側、いや宏紀側に別れた生徒会―――生徒会間での移動も裏切り、寝返り、と。仕方ないっちゃ仕方ないんだが、高科はあまりそういう自分の周りのこと以外興味なさそうだから少し意外だ。
しかし稲嶺は、高科を気にせず柔らかく笑った。
「もちろんみんなを嫌いになったわけじゃないよ?ただ、自分がやるべきことを思い出しただけ、かな?」
「へぇ…いいんじゃない?自分で決めたんでしょ」
「うん、もう流されるのやめようと思ってね。でもでも、ちょっとくらい寂しく思ってくれないと悲しいかも〜!」
俺はまだまだ瀬奈のこと大好きだもんね〜と投げキスをする稲嶺。その頭をいい加減本当に空気を読めとはたく。
「おら、もう帰るぞ」
「いたっ!暴力反対!もうたっくん、男の嫉妬は醜いよ?」
「はいはい、勝手に言ってろ」
「あれれ認めちゃうのー?」
「あぁもうお前はこれ以上ややこしくすんな!とっととずらかるぞ!」
「なんかそれ悪いことしたみたいだよかいちょー」
楽しそうに笑う稲嶺にイラッとして、まだ話したそうなその首に腕を回して引きずってやる。振り向けば、名残惜しそうに手を伸ばす稲嶺にあっさりとひらひら手を振る篠崎と目があった。
「じゃあな、俺たちはもう行くが気をつけろよ」
「会長こそ」
「瀬奈またね〜!瀬奈も高科ちゃんもまたおしゃべりしようね〜!」
「さっさといっちまえ下半身コンビが!」
「あっちょっとそれは聞き捨てならないかな高科ちゃーん」
遠くなる高科の言葉のなにが琴線に触れたのか、再び戻ろうとする稲嶺を無理矢理引きずる。そもそも俺のが立端ある上にそんな体勢のお前に力負けしてやるつもりはねぇよ。
「ちょっと待ってよかいちょー!俺高科ちゃんに言いたいことが、」
「今度にしろ。今はもう帰るぞ」
「え、」
「ん?生徒会室に戻る前にどっか行くとこあったのか?」
「あ、や、ううん。ううん全然なんもない、大丈夫!さあ帰ろうもう帰ろーっ!」
なぜか突然抵抗をやめて体勢を建て直し、たっと寧ろ俺の前を歩き出す稲嶺。その歩調がどこか浮かれていて首を傾げる。いったい今の会話のどこに機嫌を直せる要素があったかはわからないが、帰ってくれるなら問題ないか。
時折スキップまで挟む稲嶺の後ろ姿に呆れて頬を緩めつつ、俺はそのふわふわと跳ねる頭のあとを追った。
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