Arcadia | ナノ
確かあいつは篠崎ファンクラブの一人だったな。篠崎と中谷と高瀬、ついでに長谷も同じクラスだったはず。家柄はそこそこ、成績も悪くない。なにか問題を起こすわけじゃないからDではないが、サボりの常習犯らしい。
人を寄せ付けない空気と人との交流を嫌う性格、そしてその外見も手伝って、ついたあだ名は確か一匹狼、だったか?いやあだ名じゃないか、異名ってやつか。
「瀬奈から離れろっつってんだろ…!」
「うおっ!引っ張んな玲!取れる!」
「おーおー随分と威勢がいいじゃねぇか一年坊主」
到着早々、頭を押さえる篠崎の手をひっつかんで引き寄せようとするも、肝心の篠崎が取れるだなんだ言って頭を守ろうと抵抗するから上手くいかずに舌打ちをする高科。俺は俺でこういう威勢のいいガキを見ると挑発したくなってしまって、篠崎の頭に手を乗せたままニヤリと口角をあげた。案の定、簡単に挑発に乗ってカッと目を見開いた高科は、俺の手首を掴んで力任せにダンッと壁に叩きつける。
「っ!」
「てめぇ舐めんのも大概にしろよ!」
「いってぇんだよ、そういうとこがガキだっつってん、」
「あ"ーーーーー!!」
ギラギラと至近距離で睨み付けてくる高科に、そう言って頬を緩めた瞬間すぐ近くで叫び声。なんだ、とそちらに目を向けた途端―――…
「―――…!」
俺は目を見開いて、絶句した。
俺と高科に対して黄色い声が上がっていた廊下にも、瞬間、静寂が訪れる。
「やべぇ取れた…どうしよう玲」
全注目を一身に集める人間から、ぽつりと発せられた言葉。
途端廊下に、先とは比べ物にならないほどの様々な色の悲鳴が響き渡った。
「おまっ!どうしようじゃねぇさっさと被れアホ!」
「なっ、そもそもお前が会長の手を無理矢理どけるから悪いんだろうが」
「だーもうわかったから!俺が悪かったから早く被れ!」
「え、おま…篠崎…?」
名前を呼べば、振り向くふわふわの金髪。
俺の目の前には今―――絶世の美少年が立っていた。
「あー…はは、びっくりしました?ヅラっすよこれ、よくできてるでしょ?あ、それ取ってもらえます?」
「え、あ、おう…」
それ、と指さされたのは俺の後ろまで飛んでいた瓶底メガネ。どうやら高科に無理矢理手を引き剥がされた時に、鬘ともども撥ね飛ばしてしまったようだ。
って、そんなことはどうでもいい!
「えっ、は!?まじかお前!篠崎!?」
「おっ会長やっと戻ってきた。あ、あざっす」
ふわふわの金色した猫っ毛に、ばしばしと長い睫毛に縁取られた大きくて澄んだ茶色の瞳、すっと通った鼻筋、形がよく薄い唇。外国の血が入っているのだろうと思わせる、人形のように整った外見の篠崎が笑う姿は、さながら天使で。
俺は思わず―――持っていた鬘をふんだくり無理矢理被せた。
「うわっ!ちょっと会長!?」
「てめぇなにしてやがる!」
「それは確かにちょっとまずいぞお前、メガネも掛けとけ」
こんな目撃者の多い状況で今更なような気もするが、とりあえず安全に帰るためには必須だ。鬘はまぁ、ちゃんと付けてないから違和感があるが、とりまえずこれで良しとしよう。
しかしあのもっさりマリモの中がこんなにも美少年だなんて、ドッキリにも程がある。今頃この噂は光の早さで校内を駆け巡っていることだろう。
「あー…おい篠崎、悪いことは言わねぇから今日は食堂いくな。なんか買ってきてもらえ」
「え、あ、はい…」
「そんで高科、お前は絶対に篠崎守れよ」
「は?てめぇなんかに言われなくても、」
「今までとは違ぇからな?敵意からだけじゃねぇ、好意の暴走からもだ。篠崎も親衛隊じゃないからってほいほいついてくんじゃねぇぞ」
なるべく早口で捲し立てると、勢いに気圧されたのか篠崎だけでなく高科までもが素直に頷いた。よしいい子だ、それでいい。
いまだ興奮冷めやらぬ、といった状態でこちらへの注目は外れない。これはやっぱり篠崎にも護衛をつけた方がいいかもしれない。だが一先ず俺もこの場を離れた方がいい―――そう、思った時だった。
「たっくんやっと追いついたーっと!」
「ぐぁっ」
「んんー?あらあら瀬奈と高科ちゃんじゃん、久しぶりーっ」
「……稲嶺…」
ドンッと背中に重たい衝撃。
がばっと前まで回ってきた両腕に締め付けられながら、肩に乗っかった顔が驚いたように耳元で喋る。再び荒れる廊下の悲鳴に、俺は深々と溜め息をついた。
―――頼むから、厄介事は一つずつにしてくれ。
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