Arcadia | ナノ
「―――あ、」
「えっあれっ?会長?」
「よぉ、篠崎」
こちらに気づいたと思ったらたたっと駆け寄ってきたのはもじゃもじゃマリモ頭。俺が先に気づいたのは多分、この頭が判断材料だったからだ。だから見知った顔というよりも見知った頭、だな。ちなみに顔は相変わらず前髪と瓶底メガネに隠れていてわからない。
「これから昼飯か?」
「あ、はい。というか会長、こんな所いて大丈夫なんすか?」
「は?なにがだ」
突然飛び出した、よくわからない質問に眉を寄せる。こんな所にいて?俺はここにいるべきではないようなことを、なにかしたか?
頭の上に疑問符を浮かべていると、唐突に手首を捕まれて人目を気にするように廊下の真ん中から端へと移動させられる。力強ぇなこいつ。喧嘩が強いって中谷も言ってたっけ。
今は大半の生徒が食堂にいるおかげで廊下には人が少ないから良かったが、それでもどこか遠くで悲鳴が上がった。おいこれはちょっとまずいんじゃないのか?立ち話はさっさと済ませるべきだな。それで話は、と促せば、少し躊躇してから篠崎は口を開いた。
「…だって会長、襲われたって聞いて、」
「ちょっ!てめここでんなこと言うな!」
「んぐ!もがっ!」
予想外の話の流れに慌てて口を塞ぐ。途端、悲鳴のような叫び声が廊下中に響き渡った。
しまった、やっちまった…!
「っと、わりっ!」
「ぷはっ、いやいいっすよ。俺もここで言うなんて考えなしだったし」
「あ、まあそれもなんだが、親衛隊刺激するようなことしちまったから」
「はっ、なに言ってんすか、今更でしょ」
ふふん、と鼻で笑ってみせる篠崎の様子からして、その言葉は見栄っ張りではなく確固たる自信からのようだった。だから気にしなくていいだなんて、そんなこと決してないんだが、それでもこっちも少しだけ気が楽なのは確かだ。俺の親衛隊は蓮が管理しているから制裁なんてしないはずだが、他の親衛隊に更に制裁する理由を与えたかもしれないのだから。
「ていうか会長も同じでしょ。あんたも気をつけなくちゃ」
「…あ、あーいや、心配はありがたいんだが…ちなみにそれはどこから聞いた?」
「え、なんか宏紀が、あんたが制裁にあって強姦されかけたらしいって話を…」
「おーけー!ありがとう理解した、詳細はいらん」
宏紀め…制裁が失敗したからって下らねぇことしやがって。
思わずチッと舌打ちが漏れる。がしがしと頭を掻いてから、ぽんとそのマリモ頭へと手を乗っけた。
「まあなんだ、俺は嵌められただけだから。風紀とも関係は近いし、目を光らしてくれてる」
「そりゃ会長は最重要警護対象でしょうけど。…とりあえず、この事はあんまり広めない方がいいわけですね?」
「あぁ、頼む…物分かりいい奴は嫌いじゃないぜ」
まあここで口止めしたところで、気休めにしかならないのはわかってるんだが。
ふっと息をはいて頭の上に置いていた手でそのままぐしゃぐしゃと頭を撫でると、篠崎はうわズレる!と慌てて髪を押さえた。なんだ、その歳で鬘かなんかなのか、お前は。その慌てっぷりがあまりに必死で、思わずくつくつと笑ってしまう。それならばと、もっとかき回してやろうとした、その時。
「その手ぇどけやがれくそやろう!!」
響き渡る怒声。
驚いて振り向くと、こちらめがけて全速力で走ってくる銀髪。190近い迫力のありすぎる長身。髪と同じくギラギラと睨みつけてくる三白眼。
敵意剥き出しの、手負いの狼のような男が、一人。
確かあいつは―――…
「高科玲(タカシナ レイ)、か?」
これはまた、めんどくさそうな奴のご登場だ。
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