Arcadia | ナノ
「―――それで?お前はどういうつもりでここにいるんだ?」
生徒会室に戻ってきた俺は、会長席へと座りながらそう声をかけた。その問はもちろん、風紀の部屋を出てからずっと俺の後ろについてきていた稲嶺に対してだ。
あの後すぐに風紀から解放され、俺は隼人と祐と三人で保健室へと向かった。宣言通り、保健室で寝ている不届き者共が二度と同じことを繰り返す気にならないよう、わざわざお説教をしに行ってやったのだ。
学園の不良ツートップを脇に侍らせて登場した俺に、案の定奴らは気の毒なほど真っ青になって。もう二度とこんなことはしないこと、俺とは関わらないこと、そしてこいつらと俺が繋がってることを口外しないことを固く誓わせた。あいつらとしても二度と関わりたくなかったろうし、願ったり叶ったりだっただろうが。
それにしてもあんまり素直に激しく首を振るもんだから、思わずニヤリと笑みを浮かべていい子だ、と誉めれば、頭を思いきりはたいてきたのは祐で。なんだと振り向けば、祐は相変わらずお前は甘いしアホだと呆れたように笑っていた。よくわからないが祐がどことなく嬉しそうだったから良しとしよう。そして保健室から出るとすぐにあいつらとは別れたのだ。変な奴に一緒にいるところを見られても困るしな。
まぁとにもかくにも俺が思っていた通り、やっぱりこの方が罰則よりも効果あったわけだ。
主犯のあのちっこい親衛隊も、今頃風紀のお説教と罰則を食らっているところだろう。一時間後に戻ってくると言ってたのを伝えてあるから、もう捕まってるはずだ。あっちは変に宗教性を持ってるせいで脅しが効く相手じゃねぇし、俺達の繋がりを知る人間が増えるのも面倒だから風紀に任せてしまった。謹慎やら隊への注意やらが一番効くだろうしな。
さて。
それで、だ。
「戻ってきたんだって思っていいのか?」
風紀委員室から出てから、当然のようにふらふらついてきた稲嶺は、お説教中も一歩後ろでニコニコしながらそれを聞いていた。恐らくあいつらをビビらせた原因の一つでもあっただろう。恐ろしいほどに崩れない笑顔、いつの間にか会長側についていた会計。自分が聞いていた勢力図とは違う、会長は圧倒的不利なんじゃないのか、と。
まあそこまで考えたかは知らんが、十分脅し材料になってくれたのは確かだ。
なんて考えていると、机の前まで来た稲嶺が、ガバリと頭を下げた。
「ごめんなさい会長!!」
ぎゅっと握られた拳。
今まで聞いたことのない声音。あの時食堂で俺に向けられたのとはまた違う、真剣で真摯なもの。
頭を下げたままで、稲嶺は懺悔を続ける。
「ごめん、ごめんなさい、全部押し付けて、酷い言葉投げつけて。会長は俺達を信じてくれてたのに裏切って、一人で辛い思いさせてごめんなさい」
「………」
黙っていると、おずおずと上げられた、必死な顔と視線が絡む。
「本当に許されないことをしたってわかってる。だけど許されるならば…もう一度だけ、チャンスをください!もう一度、会長と一緒に仕事をさせてください…!」
再び下げられた頭。
いつになく真剣で緊張している姿を見つめながら、椅子からゆらりと立ち上がる。ふー、と息を吐くと、びくりと肩が揺れた。しばらくそれを見てから、片手でがし、と頭を押さえつけた。
「…二度目はねぇからな」
「!」
「また裏切りやがったら、今度こそ許さねぇ」
「…!!」
ふん、と鼻から息を吐いて手をどけてやる。
こいつ仕事処理能力落ちてたらどうしてくれようと思いつつ、さっさと仕事に戻れ、と言おうとしたところで、ガバリと抱きすくめられた。
「ちょ!おいなんだ!」
「かいちょー!!あぁもうかっこよすぎ!大っ好き!ほんと好き!!ありがとーーーー!!」
「稲嶺!」
「俺かいちょーのためなら本気だしちゃうもんねーっ!良いとこ見せるから!汚名挽回するから見ててね!」
「…ったく、それを言うなら名誉挽回、汚名返上だアホめ…」
汚名を挽回してどうするつもりなんだこいつは。ぎゅーっと抱き締めて満足したのか、るんるんと自分の席へと戻る稲嶺にげんなりしつつ、俺も自分の席へと座り直す。まったく騒々しい奴が戻ってきたもんだ。
しかしようやく一つ埋まった役員席に、頬が緩んでいたことに気づくのは、稲嶺に指摘されてからだった。
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