Arcadia | ナノ
ふんわりと笑む桜庭。
こいつ、否定はしないまでも疑ってるな。察しの良い奴は嫌いじゃないが、こういうときにはめんどくせぇ。しかも表情も見てる方もよくわからない糸目とか質悪ぃな。
「あーそれは、俺が…」
「拓から隼人にワンコールがきた。間違いだったら普段はすぐにフォローがくるはずなのに、今日に限ってそれがない。その前までの電話で大体拓がいる場所の目星はついていたから、急いでそっちへ向かった。それだけだ」
答えようとした俺を遮って、祐が流れるように言葉を紡ぐ。台本があるかのような回答。いざという時の筋書きは作ってある。
しかし実際は、全然違う。
普段は緊急時しか使わないという約束なのだが、万一不測の事態が起きたときのために、今日はGPSで俺の位置を特定しておいてもらうよう頼んでいたのだ。さらに俺の携帯は電源が切れるとそれが二人に通知される仕様になっている。
予定にはない部屋、予告なく落ちた携帯、それらに反応して二人は来てくれた。 だから正直あの時、あの男が電源を切ってくれて本当に感謝したのだ、そうでなければきっともう少し到着は遅かっただろうから。
今までのところ、稲嶺も誰も、携帯の提出は求められていない。そこまで厳密に聞かれるものじゃないのだと踏んでのでたらめ。携帯の提示を求められれば簡単にばれる嘘、だが。
「…ほんまやんな、瀬戸?」
「あぁ」
「ならえぇねん。もしあとちょっと遅れてたらと思うとぞっとすんなぁ、おおきにな」
「あんたに感謝される筋合いはない」
癒される笑顔を浮かべる桜庭を、祐は興味なさそうに一蹴する。
とりあえず信じてはもらえたようだ。というよりも、この件を先に片付けるために保留にしたという方があっている気もするけれど。
「まぁほとんど予想してた通りだな。それで奴らの処分だが、」
「…もういいんじゃねぇの、別に」
「はァ?瀬戸てめぇなに言ってんだ」
処分なんてもういらねぇだろう。きっとそいつらは、二度と俺に抵抗しようとは思えないくらいのトラウマは植え付けられているはずだ。
「隼人がやったんならもう十分だ。それに謹慎処分にしたって結局病院から出られないんじゃねぇの?だったらわざわざ処罰するまでもねぇよ」
「だがなぁ、こういうことはきちんとケジメつけねェと」
「…俺は今、制裁されて強姦されかけたって情報が出回る方がまずいんだよ。あんなこと今すぐにでも脳内消去してぇし周りからそういう目で見られるなんてヘドが出る」
そう吐き捨てる。
なにより今が狙い目なのだと、他の親衛隊の奴らに知れたら本当にまずい。
「だがこのまま野放しにしたら、あいつらが戻ってきたときに言い触らさないって保証はねェぜ?」
「わかってる。あいつらまだ保健室にいるんだろ?これから隼人と祐連れてお説教しに行ってやるよ。もう二度とあんなことやろうとも思わないようになぁ」
「なに拓ちゃん、あいつらまた絞めていいの?」
「あぁ構わねぇよ。だが手はだすのは禁止だ」
りょうかーい、と口だけつり上げて笑う隼人に口角を上げて応えてやる。
あいつらは今まだ保健室で安眠を貪ってるんだろう。俺のバックにこいつらがいることを予想しとけというのはさすがに酷だが、なんというかまぁ、ご愁傷さまだな。
「ったく、てめぇは甘いっつってんだよ」
「甘いもなにも、大事にしないのが俺にとっても一番いい結末なんだよ」
「それはわかってるんだがなァ」
「心配すんな、親玉に落とし前は必ずつけさせる」
確かに家の名で捩じ伏せることはしなかった。でもそれは全てを享受するという意味ではない。あくまでも瀬戸拓巳が戦うのだと、ついさっき散々煽ってきたのだ。
(泣き寝入りなんざ、してたまるか)
柄にもなく露骨に心配してくる峰岸に俺は、心配無用と口角を上げた。
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