Arcadia | ナノ
「俺さぁ、昨日副かいちょーと副かいちょーの親衛隊長の話聞いちゃっんだよねぇー…かいちょーを制裁する算段がつきましたーって」
その算段とは恐らく、宏紀の熱狂的な信者に真しやかな噂を聞かせることだったんだろう。不自然なまでにピンポイントな噂だが、隊長からもたらされることによって親衛隊にとっての信憑性はきっとなによりも高くなる。なんにせよ、宏紀が真っ向から対立している人間に一矢報いるためならば、ダメ元だって張ってみる価値はあったのかもしれない。
「俺はさ、ちょっとやりすぎなんじゃないのかなーって思ったんだ……や、ううん、怖じ気づいたんだよ、直前になって」
「……」
「だって俺はみんな大好きだから。楽しくみんなで笑ってたいんだぁ…瀬奈のことも好きだけど、かいちょーのことも好きだからねぇ」
「稲嶺?」
「ごめんね、楽そうな方に流れちゃって」
今更かもしんないけど、そう情けなく笑う稲嶺。
なんて言うのが正解なのかわからなくて、言葉が出てきてくれない。
「だからやっぱりこれ以上かいちょーに嫌われたくなくて、つらい思いしてほしくなくて、生徒会室に外出しないように言いに行ったんだけどかいちょーいなくって。だから風紀にね、言うことにしたんだよ」
「それで偶然生徒会室の近くで遭遇して、報告されたのが俺だったんです。俺は生徒会室待機組だったんですぐに無線で連絡したんです、けど…俺が着く頃には、風紀委員が廊下で伸びてて」
「あーそりゃ俺達だ」
「は?」
はいはい、と手を上げたのは隼人で。隣では祐が頷いてて、思わず声が出る。
「は?なんで伸したんだよ」
「だってこいつらあの廊下をブラブラここに向かって歩いてんだもんよ。そんで俺らが血相変えて走ってくの見て、なんか知らんが止めようとしてくるし。説明しても理解してくれそうになかったし頭ん中拓ちゃんで一杯だったから手加減する余裕もなかったから」
「ま、じか…なんか申し訳ないというかなんというか」
「いやその件に関してはうちの過失だからな、感謝こそするが恨んではねェ」
憮然としてそう言う峰岸に、隼人が不愉快そうに笑う。
「滝川が瀬戸抱えて入ってくるのと、長谷から連絡が入ったんはほぼ同時だったやんな。や、一瞬滝川が早かったか」
「…すみません、一方的に伝えて無線切ってしまって。会長がもう無事だとは知らずに、俺は馬鹿みたいに現場に向かって…」
「いや助かったぜ?うちの学校で人殺しが出る前に楢原を止められたしなァ」
「はっ、いっそ殺してやりたかったけどな」
笑みを浮かべながらそう言う隼人に、今回はそんなに酷くはなかったのか、と安心する。今まで隼人の地雷を踏んだ人間が、無事でいられた覚えがない。自分が隼人と裕の地雷であることくらい自覚している。逆も然り、だが。
そこまで皮肉った笑みを浮かべていた隼人だったが、しかし今度は興味津々といった様子で長谷の方を見た。
「しっかしお前かなり喧嘩できんだろ。あんまり上手く止めようとするもんだから、風紀だってわかってても本気で抵抗したくなったよ」
「いやあれでも必死だったし、あんたに本気なんて出されたら…」
「じゃあ今度がちな手合わせしようぜ?たまにはこっちでもお前みたいな綺麗な喧嘩をするやつとヤりてぇ」
「隼人!」
「った…!」
ニヤリと口角を上げて獰猛なフェロモンを振り撒く隼人に長谷がギクリとすると同時に、俺の前を手が伸びて鉄拳が落とされる。痛みに身悶える隼人にあーあと思いながら長谷を見れば、赤かった顔をすぐに青くして違います違いますと首を振るもんだから、思わず笑ってしまった。
「アホなこと言ってんじゃねぇ、んなにヤり足りねぇなら俺が相手になってやるぜ?」
「なにダーリン、相手してくれんの?」
「あのっ本当になんでもありませんから!」
「いや仕方ねぇよ、隼人綺麗だかんなぁ」
「ちょっと信じてくださいよ会長!俺がお守りしたいのは貴方だけです!」
アホな会話を繰り広げる二組を風紀のツートップが呆れてる成り行きを見守っていたが、飽きたらしい峰岸はソファに凭れて欠伸をし始めた。稲嶺は空気のように静かなだけだし、残された桜庭は仕方ない、というようにパンパンと手を叩く。会話をやめて振り向くと、呆れたようにため息を一つ。
「大体の流れは把握したから、最後に一個だけ聞かしてくれな。なんで楢原と滝川は、瀬戸の状況と場所がわかったんや?」
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