Arcadia | ナノ
「拓ちゃん!!」
「おわっ」
「ごめん、遅くなってほんとにごめんな…!」
部屋を出た途端、ガバリと抱きすくめられる。苦しいほどに抱き締めてくる男の、フワフワとくすぐったい髪の毛に安心して頬が緩んだ。すぐには離れようとしない背中を、あやすようにぽんぽんと叩く。
心配かけてごめん、と謝りたいのはこちらの方だ。
ほぼ同じ背丈の従兄の肩越しに見えるのは、ソファに座る峰岸と桜庭、長谷、そして―――…
「かいちょー…」
「稲嶺?何でお前がここに…」
久々に見る会計の姿。
相変わらず軽そうなタレ目の男が、困ったように曖昧に笑んだ。
「災難だったな…だが積もる話は後だ。とりあえずそいつ引き剥がしてこっち座れ、瀬戸」
そう峰岸に声をかけられるとほぼ同時に、ほら行くぞと祐が俺にしがみつく隼人の頭をはたく。ようやく体を離した隼人はしかし手を離してはくれず、手を引かれるようにしてソファに先導された。
隼人と裕に挟まれるように座ると、対面に座る峰岸が口を開く。
「…もう大丈夫なのか?瀬戸」
「あぁ。問題ねぇよ」
「そうか?なら処罰を決めるために事の顛末を整理していきてェ。が、とりあえずお前らの関係だけ、」
「幼馴染みだ。拓と隼人親同士が仲良くて、隼人に拾われた俺も含めて幼い頃から知ってるってだけだ」
「へぇ、幼馴染みね…」
峰岸が言い終わるよりも、俺が答えるよりも先に、祐がめんどくさそうに必要最低限だけ答える。間違ったことは言っていない。拾われっ子の祐は隼人と幼い頃からずっとずっと一緒だったし、俺は母親と共に出席したパーティーで二人に時折会っていたのだから。
復唱する峰岸の隣で、今度は桜庭が苦笑しながら先を促す。
「ほんなら整理していくで。瀬戸、あの後なにがあったん?」
「あの後?俺は―――…」
ごく簡単に、流れだけを説明する。
物音がしたから準備室を覗けばそれが罠だったこと。媚薬を無理矢理飲まされたこと。抵抗していたら裕が来てくれたこと。
特に予想外のことはないのだろう。確認するように頷きながら先を促される。
「なんでお前があそこを通ることを知っていたのかわかるか?」
「…噂を聞いたらしい」
「噂?」
「今日の昼頃に、俺があそこを一人で通るって」
「……一条の野郎か…」
チッと舌打ちをする峰岸。
それを興味なさそうに見つつ、隼人が口角だけつり上げた。
「まぁなんにせよ、てめぇらがさっさと退却すっからだろうがよ」
「っそれは、」
「最後まで風紀を付かせときゃ防げたろうに、これだからてめぇらは、」
「隼人」
風紀を責め立てる隼人に、祐が静かに声をかける。と、隼人は我に返ったように、唸りながら頭をがしがしとかき回した。
「あー…悪ぃ、八つ当たりだ。そりゃお前らにゃ無理だよな、仕方ねぇよ。だから俺らがいるってのに…」
「あァ!?てめぇそりゃどういう意味だ!!」
「あ?んなこともわかんねぇのかよ、そもそも端っからてめぇらなんざ信用してねぇって言って、」
「会長!俺が悪いんです、申し訳ありませんでした!!」
再び言い争い始める隼人と峰岸。
止めようと仕方なく口を開きかけたがしかし、先に二人をぶった切って声を上げたのは、長谷だった。
「俺、解散の指示がでたあと、本当は一人で会長についていようと思ってたんです…でも、」
「俺がねぇ、彼を引き留めちゃったんだよー…」
申し訳なさそうにそう言ったのは、稲嶺で。
予想外の人物のここでの登場に、俺は目を瞬いた。
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