Arcadia | ナノ
(R15)
いまだ熱く火照っている体をベッドへと降ろし、扉の鍵を閉めにいく。戻って苦しそうに荒く息を吐く拓のネクタイを抜いてワイシャツのボタンを2つ外してやる。そこから覗く首筋から鎖骨にかけては汗にしっとりと濡れていて、見慣れているはずの俺でさえも目に毒だ。
「…まだ、寝ててくれよ」
汗で張り付く前髪をすいてから、額にちゅっとキスを落とす。
スラックスのジッパーを下げて、下着の中から取り出したモノ。大切な幼馴染みであり未来の主人の、強制的に昂らされているそれに感じるのは――――紛れもない憤り。
ゆるりと手で包み込んで擦り始めると、あっという間に先走りで濡れていく。微かに漏れる呻くような声。しかし寝ていてさえも声を漏らさないように歯を食い縛るその姿が、酷くこちらを苦しくさせる。
プライドが高いことは、重々承知だ。
幼い頃からそうだった。それが楢原のトップになる上で不可欠なものだとはわかっているし、今まで生きてきた中でこいつを支えてきたものも、確かにそれだったということもわかってる。
寧ろそれがなければトップになる資質も資格もないと思っている、けれど。
(それでもどこかに、こいつが休める場所があればいいのに――――なんて願うのは、身勝手か)
どこまでも重く重く期待しておきながら、たまには休めよ、なんて安易に言葉を掛けられる立場に俺はいない、と思う。
周りの期待と羨望、そして失望。
酷く身勝手で理不尽なそれを、しかしこいつはなにも言わず受け止める。
そんなこいつを甘やかすのは、甘やかせるのは、共に楢原の名を背負う隼人だけだ。俺は鼓舞し支えるだけ、それだけでいい。それしかしてはいけない。
「っ、ぁ…っく…」
「……」
だけどこんな時は、どうしようもなく甘やかしたくなってしまう。
もういいよ、と大切に守って。俺と隼人で大切に大切に、安全なところに囲ってしまいたくなる。
愛しているのは、隼人ただ一人だ。
けれど俺も隼人もお互いに、何よりも大切なのは、最優先事項は拓だから。
「っ、ゆ、やめろ…!」
「拓…?」
ぱっと掴まれた手首。
見ると、刺激で覚醒してしまったらしい拓が、ぎりぎりと歯を食い縛りながら俺を見詰めていた。信じられない、という顔で、熱い息をしきりに繰り返して。果てる寸前だったんだろう、ほんの少しの刺激も辛そうに潤んだ瞳を歪め、俺の手首を握る手にも微かに力が入る。
「自分で、やるから…っ」
「無理だって自分でもわかってるだろ?」
「っ、ゆー…!」
「大丈夫、俺に任せて」
手に力が入らないことは、俺の手首を掴んでいることできっと本人が一番わかっているはずだ。悔しそうに手を放す拓に笑いかけ、あやすように前髪を撫でる。
「嫌だったら目ぇ瞑ってていいから」
「…っは、くっそ、」
「唇じゃなくてこれ噛んどけ」
自分のネクタイを解いて口元へ運ぶ。すると大人しく口に含む姿に、いい子だ、と目を細めながら手の動きを再開した。
びくりと震えてぎりぎりとシーツを握り締める手。ぎゅっと瞑った目尻から涙が一筋溢れ落ちる。
あんな話し合いをした直後だ。悔しくて、虚しくて、苦しいんだろう。
それでへこたれて泣き寝入りするほど、こいつが弱くも女々しくもないことはわかってる。わかっているけれど今くらいは、泣いて喚いて、内に溜め込んだものを少しでも吐き出してくれたらいい。背負い込んでいるものを、少しくらい軽くできたらいい。
ただ、そう願う。
「―――ッ!」
手にどろりと吐き出された感触。
しかし萎えることのないそれに、ひどい媚薬を盛られたもんだと嘆息しつつ、信じたくない、という顔をする拓の頭をあやすように撫でてやる。
(自分の失態も、相手の行為も、悔しくて悔しくて堪らないんだろうけど)
せめてこんなときくらい、俺の前では自分を甘やかしてやってほしい。
白濁と涙と共に、色んなものを吐き出してしまえばいい。
そう思いながら、手の動きを再開した。
〈SIDE END〉
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