Arcadia | ナノ
〈SIDE:×××〉
ふっと意識を失い全身を預けてくるその軽さと熱さに頭にカッと血が上った。
動き出そうとした脇を、姿勢を低くした茶髪が通り抜ける。キラリと光る紅い石。
「っ、殺すんじゃねぇぞ!」
周囲を圧する殺気にあてられながらも、なんとか声を張り上げる。しかしきっと聞こえてなどいないんだろう。血が上った頭を醒ましてくれたのはありがたいが、本人は獲物以外見えてはいない。
優先順位など決まりきっている。ならば今やるべきことは明確だ。
始まった制裁にくるりと背を向け、痩身を抱え直して走り出す。振動さえ刺激になるのか、しきりに熱い息を吐き出す拓に、思わずぎゅっと眉が寄った。
廊下に出るとそこには“手間取った原因”の風紀委員共が転がっていて。話が通じず、仕方なく伸したときと同じ格好で、未だ起きる気配のない奴らにちっと舌打ちが漏れた。
(使えねぇなぁ…!!)
そのまま屍を乗り越え走る先の目的地はもう決まっている。本当だったら頼りたくはない。奴の顔なんざ見たくもない。それに何より、拓を助ける姿を見られるわけにはいかないのだ。
しかしそうそう贅沢も言ってはいられない。緊急事態な上、結局拓のもとへ向かう姿をこいつらには見られているのだ。ならばもう、拓と俺たちが親い関係にあるとバレるのは時間の問題だろう。ならば今バラしたって誤差範囲。そして味方が少ない今、安全だと言い切れる場所は一つしかないのだから。
幸い―――いや、皮肉なことに、そこは本当にすぐ近くで。すぐに見えたそこに乾いた笑いが漏れる。あのアホ共は、こんな目と鼻の先でなにも出来やしないのか?気づきもしないのか?あんな御大層な肩書きと権力を持ってるっつうのに、情けねぇ奴らだな。
拓を抱えてるから手は使えない。ならば仕方ねぇ、と無駄に重厚そうな扉をガァン!と力任せに蹴り開ける。
「邪魔すんぜ!」
「っな、てめェはっ」
ついさっきまで偉そうにふんぞり返って椅子に座っていたんだろう、その格好のまま目を見開く猿山の大将。俺の腕の中の人物に気づいたのか、更になんか叫んでるが今は無視だ。俺は奴の間抜けな姿を見にきたわけでも拓を届けに来たわけでもない。ただ、拓が安全な場所と人手を求めて来ただけなのだから。
「てめぇらの第二準備室に校則違反者と隼人がいる、さっさと行って乱闘を止めてやれ!」
「はァ?いきなり何言って、」
「早く行けって言ってんだよ!隼人が誰かを殺しちまう前に止めてこい!!」
理解の悪い野郎だな…!俺がこんなところに来てる時点で緊急事態だってことくらい察しやがれ!
仮眠室へと向かいながら怒鳴れば、ツートップがちらりとアイコンタクトをする。ついですぐに副が指示を出し始めたのを確認してから仮眠室のドアへと手を伸ばそうとすると、横から伸びてきた手が先にドアノブを捻った。
「おい、瀬戸になにが、」
「今は話をするつもりはない。いいか、拓のことを思うんだったら絶対にここは開けるなよ」
「は?ちょ、待てって」
だからしゃべるつもりないつってんだろうが。
全くもってなにも理解できずにいる男を無視し、扉を肩で押して仮眠室の中へと入る。肩を掴んでこようとするのを往なして振り返った。
「気安く触んじゃねぇよ」
「お前なァ!」
「ああ…あと、隼人が来ても絶対この部屋には入れんじゃねぇよ」
「はあ!?ちょっと待て!おい!滝川!!」
閉まる扉。
奴のことだ、拓のためだと言われれば約束は一方的であったとしても守るだろう。
「じゃあなぁ、峰岸くん」
優先順位など決まりきっている。
―――それなのに漏れた、先程の言葉。
あれは、本音だ。そんなこと前からわかっていたはずなのに。こんなことに一瞬でも戸惑った自分に、小さく苦く笑った。
prev
|
back
|
next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -