Arcadia | ナノ
あいつら仕込みの護身術という名の喧嘩を知っているから、こんなとろそうな奴らに負ける気はしない。この自信が自惚れではないことは、過去に実証済みだ。
だけどただひとつだけ気がかりなのは、先程飲まされた薬。何の作用があるのか、いつ利き始めるのか……不安要素は宅さん。だが迷っていても薬が回る時間を与えるだけだ。
打開策はまだ浮かんでないが―――仕方ねぇ、と足を踏み出した、その時。
「ふ、く……っ!!」
刹那、地に着いた脚から背中までを電流が駆け抜ける。崩れ落ちそうになる身体を叱咤して踏みとどまった。こんなところで蹲るわけにはいかない。しかし気付けば全身が異様に熱く、汗が噴き出ていた。
(催淫剤……!)
辿り着いた最悪な結果に心中で罵倒する。
だがそんなことをしている場合ではない。とりあえず、今は、ここをどうにか切り抜けなければ。奴らがこちらの様子に、気づく前に―――…
だがしかし、世の中はそんな上手くいくもんじゃないらしい。
かなり逃げ腰になっていた2人が、こちらの様子に気が付いてニヤリと笑った。ったく、めんどくせぇな、逃げてしまえばいいものを。
「あれぇ会長、立ってるのもやっとなんじゃないっすかぁ?」
「利いてきたみたいっすね、もんのすげぇ色気っすよ」
「………言ってろ、」
がくがくと笑う膝に力を込めて、一足飛びに標的へと向かう。驚いた顔にニヤリと笑い、そのムカつく顔面に思い切り肘を入れてやった。
薬さえ効けば動かなくなるとでも思ったか?甘ぇよ、俺は最後まで足掻き続けるぜ。そう簡単にヤられてやるわけにはいかねぇ。
「ぅ、くっ…!」
しかし触れた部分すべてがじんじんと疼き始める。
些細な刺激から電流が生まれ、全身を駆け巡る。
確かにこりゃ動きたくなくなるレベルだ。
だが止まるわけにはいかなかった。
この状態では普通に仕掛けたら相手を倒す前に自分が崩れてしまう。勢いにのって畳み掛けるしか勝ち目はない。
失速は――――イコール負けだ。
あと1人。
大丈夫だ、頼む、もってくれ…!
「っ死に、さらせぇっ!!」
ぶん、と脚を振り上げて、そのまま振り子のように返す。
うるさく脈打つ自分の鼓動しか聞こえていない今、タイミングは賭けだった。
「―――っ!」
脚を振り切った瞬間、びくびくと身体が震えて今度こそ本当にしゃがみこんだ。自由の利かない自分の身体を抱え込み、短く息を吐きながら耐える。そして同時に、自分がそうなったことで、蹴りが相手に入ったことを確認した。
…終わった。
これで、いいんだ。
「…っは、ザマミロ…」
呟いた言葉は、誰に拾われることもなく消えていった。
「…っく、ふ、」
しかし当然の如く一発で気絶させられくらい重い打撃を喰らわせることなどできていない。周りの机やらなんやらに突っ込ませたからダメージになっているだけで、特に後の二人は催淫剤のせいで軽いものになってるはずだ。
これ以上ここにいる必要もない、さっさとずらかるに限る―――そう、未だ微かに震える体で立ち上がったとき。
「っは、やってくれんじゃねぇの会長様よぉ」
「ぐぁっ…!」
「ははっ逃がすかよぉ」
ぎりっと肩を力任せに捕まれて、痛みと共に良くない刺激が全身を駆ける。間近に迫られても気づけないほどに、集中なんてできてやいない。膝が折れないのはただの気力と意地だけで。しかしそれも今だけだ、ここで崩れ落ちたら、もう―――…
「さぁて、たっぷりお返しを―――っ」
パァン…!
乾いた音と共に肩を掴んでいた手が消える。
途端に崩れ落ちた身体をふわり、と支えてくれる腕。馴染みのある香りに安堵する。ふっと身体から力を抜いて全身を委ねた。
「―――わるい拓、手間取った」
「はっ、おっせぇんだよ」
霞む視界に映る綺麗な金髪。
トン、と軽い衝撃を首筋に感じ、俺の意識はブラックアウトした。
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